いつかその時まで

目を覚ました。
なんだか清々しい気分だった。
頭を起こそうとすると、動かない。
身体がピクリとも動かないのだ。
手を握ろうとしても、ピクリとも。
おかしいな。
夢でも見ているのかもしれない。
目を動かしてあちこち見回すと、窓の外の景色が見えた。
駐車場で青い服を着た人達が何人かうろちょろしている。
その傍には白い服を着た人達。
何やら楽しそうにしているのが声でわかる。
その人たちの奥に公園が見えた。
大きな木が生えている。
その木をみてわかった。
ここは私が通院していた病院だと。
いつもと部屋の中の景色が違うからわからなかった。
私がいつも使っていた部屋には、別の患者さんがいるのだろう。
別にあの病室が恋しいという訳では無い。
気分転換みたいなこともしたかったし、丁度いい。
「目が……目が覚めたのね。桜恋(さくらこ)。」
母さんが私に駆け寄ってきた。
気の所為かもしれないがいつもより幾分か痩せこけて見える気がする。
「うん。」
私は、いつもみたいに返事をした。
母さんは私の返事を聞いて安心したような表情をした。
「どうしたの」なんて言わなくても、何となくで察せてしまった。
きっと私は家で倒れるか何かしたのだろう。
それで病院に運ばれて、数日間ずっと寝たきりだったのだろう。
頭も働くし、多分訓練すれば身体も動くようになるはず。
だから、大丈夫。
不安になる心配なんてないよ。桜恋。
自分を少しでも前向きにしようとした。
でも、せっかくの苦労を母さんは台無しにする。
「聞いて、桜恋。貴方はコールドスリープを受けることになったわ。」
「……何言ってるの。母さん。ちょっと冗談がすぎるよ。倒れるなんて貧血とかの症状によくあるじゃん。それを何?大袈裟すぎるって。」
聞きたくない。
コールドスリープって、よくSFであるやつでしょ。
そんなのはいいって。
事態が呑み込めない。
私には難しすぎることを言われている。
きっと、昨日遊びすぎたから。
きっとそれに珍しく母さんが怒って、だからこんな冗談を言ったのか。
「桜恋。貴方の病気はね。確実に貴方を殺そうとしてるの。でもね、未来なら生きられるかもしれないそうよ。」
そんな事言わないでよ。
未来とかそんな不確かなものをあてにしないでよ。
「母さんは、あなたに生きて欲しいの。長生きして、それで幸せになって欲しいの。」
そんな事言わないでよ。
私の幸せは、母さんといるだけで十分よ。
もう何も望まないよ。
だから、もう何も与えようとしなくていいよ。
普通に生きたいよ。母さんと一緒に。
「私の願いは、あの人との子の貴方が幸せだけよ。だから、母さんはコールドスリープの申請をしたの。」
そんなのあるんだ。
私はこれはどうしても母さんを停めるとこができないと分かってしまった。
押し切られて自分の意思で決定なんて出来ないが、仕方ないか。
なんて思ってしまう自分もいる。
コールドスリープなんて詳しくは知らないけど、何百万とかかるはず。
そんな大金まで叩いて私を生かそうとしているのか。
母さんのエゴじゃん。
私は生きたいのに。
普通に寿命を終えて生きたいのにな。
「わかった。」
母さんの思いの大きさに私は押し切られてしまう。