「くたばれ!!」


私は目の前の男子生徒を力一杯殴った。
男子生徒は勢いのあまり後ろに尻もちをついた。
私は拳をしっかりと握って、もう一発殴ってやろうとした。
しかし、誰が呼んだのか先生がやって来て私の腕を掴む。
何やっているんだとかなんとかほざいているが知ったことではなかった。
私には心底どうでもいいように思えた。
目の前の此奴が許せなかった。
何度も殴ろうとするが、それを止めるように何度も先生が私の腕を引っ張る。
それでも、私は何度も何度も何度も精一杯振り払った。
手に負えなくなってきたのか、周りにいた先生も加わっていた。
たった一人の女子生徒対先生軍団。
結果なんて言わずもがな。
そんなの負けるに決まってる。
私は私がぶん殴った男子生徒と一緒に校長室に呼び出された。
親も呼び出しを受けて、母さんは相手の男子生徒と母親に頭を下げている。
私も同じように頭を下げる。
しかし、誠意なんてない。
私が悪いのか。
いや、そっちのいかにも被害者ですって顔をしたやつが悪いんだ。
何もかも。
私たちのやり取りを見ていない奴らが、他人に危害を加えた私と殴られた可哀想な彼奴のどちらかを信じるかなんてわかってる。
私はそれでも殴らなければならないと思った。
優等生だったとかもうどうでもいいの。
させてほしいの。


帰り道。
母さんと私は並んで帰った。
私たちの背中を夕日が照らしている。
母さんは怒り心頭もいいところだろう。
いきなり出来の悪い娘が生徒に危害を与えたとかで呼び出されて、頭を下げることになったんだ。
私なら切れてぶん殴っている。
「あの子が言っていた子?」
母さんがおもむろに口を開いた。
私は「うん」と返した。
「そっか」
母さんは短く返事をして、その後は何も言わなかった。
私も何も言わずに、私たちは家まで帰った。
ドアを開けると、広がる暗闇。
あまりの寂しさに時間が止まったように感じられる。
この空気は、時計が静かに時を刻んでいるという感じがして嫌いじゃないけど。
「ただいま。」
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
「おかえり。」
お互いにただいまを言い合って、私たちは家の中に入った。
電気をつけて私は服を着替えて、母さんは夕飯の支度を始めた。
着替えたあとは、お風呂の準備をする。
母さんはしっかりしてるから、多分もう時間設定で焚けているだろう。
服を脱いで浴室に入る。
自然に服の下にある黒いアザに目がいった。
小さい頃からある謎の痣。
調べても何もわからないらしい。
現代の医学でも解明できないものがあるなんて珍しい。
私は現代じゃあ解明できない病気を持つかもしれない唯一の存在という訳だ。
なんかカッコイイ。
彼奴に自画自賛もいい加減にしろとか言われそうだから、これぐらいにしておこう。
今日の一発は酷すぎたかな。
もうちょっと手加減してあげていいかな。
明日も絶対一発はお見舞いしてやるんだから。
でも、やっぱり手加減って大事よね。
なんて思ったが、いやいやと頭を横に振った。
彼奴が望んでいるんだからと。


風呂を出ると、母さんが夕飯の準備を終えたところだった。
もしこのまま髪を乾かしていたら、ご飯が冷めてしまうかもしれない。
私はタオルを髪に巻き付けると椅子に座って、母さんと一緒にご飯を食べた。
いつも通り美味しかった。
「おいしい。」
と、言う。
母さんは「ありがとう」と言って笑った。
父さんとはずっと前に死別してしまったが、母さんのおかげで寂しい想いはせずに住んだ。
全部お母さんのお陰だな。
母は強しなんて言葉があるほどだ。
ご飯を食べているうちに、頭の上にあったタオルが水浸しになって水滴が落ちてきて焦った。
私は毛が馬鹿みたいに長い。
だから、乾かすのが面倒でタオルを巻いたまま水分が無くなるのを待つことをよくする。
だけど、それは禿げの原因だなんてニュースを見て、少し心配になったり、なかったり。
将来のことなんて何もわかんないんだけどね。
色々あって、ご飯を食べ終えたら薬箱から大量の薬を取り出して、次々飲んだ。
順番があるらしく、私は処方箋の裏に書かれている順番通りに飲んだ。
一度説明してもらったが、何が何か分からなかった。
まあ、とりあえず症状が良くなる薬なのは間違いない。
症状とはいっても、特に私は異常を感じない。
でも、時々黒い痣が大きくなっていたりするから何か異常があるのだろう。
検査では何も無いんだけど。
薬を飲んだら、次に学校の宿題をして、次に友達のメールに返信をして、その次にテレビを見て、そして動画サイトで推し活をして、そして寝る。
明日もきっと元気に過ごせますように。