新しい学年を迎えた。
 校舎の中に置かれたボードにはクラス割が貼り出されていた。
 そこに書かれている名前は私ひとりだったから、ちょうど登校した君のことを気づいていたのに、顔を背けて歩いて行った。
 ......もう私には合わせる顔を持っていないのだから。
 
 結局、私たちの関係はどうにもならなかった。
 私は今まで以上にテニスに力を注ぎ、県大会でもそこそこの成績を収めることができた。
 でも、たまに一筋の涙を流すときがあるんだよ。私の不安をひた隠しにした上での、空元気での勝利なのだから。
 卒業式を終えると、学園内の至るところで別れを惜しむ生徒たちを見ることができた。すると、廊下で談笑している彼を見ることができた。
 私はすれ違いざまに、勇気を出して一言だけ告げた。
 「また、明日」
 それだけ言い残して、私はすぐにその場を立ち去った。まるで、逃げるように......。
 
 私たちは、それぞれのストーリーを歩むんだ。
 
 ・・・

 高校を卒業した私は、とある文系の大学に行くことにした。
 さまざまな科目の講座があるのが魅力だから、いつか私にもやりたいことを見つけてみたい。
 知らない町の風景を窓から眺めてみる。一人暮らしをはじめた私の生活は、まるで人生をリセットしたような気分だなって思った。
 今までの出来事を思い出してみたら、人生を仕切り直すタイミングは色々あったと思っている。でも、私はそのタイミングを見失っていたのかもしれない。
 偶然にもそこには彼がいて、同じ歩幅で歩くようになったから。彼を変えたのは私かもしれない。でも、自分は一緒に居るという理由で満足してしまったんだ。
 君の歩みを私は知らなかった。

 その時、スマートフォンの電話が鳴った。
「ああ、はい!」
 宅配からの電話だった。
 私は思わず、その場にあったシャープペンシルを手に取って頭をノックする。
 必要なことをメモ帳に書いて電話を終わらせる。すると、まだ手に握っているシャープペンシルが目に入った。
 そうだ、これのせいで君との物語が始まったんだよね......。
 
 * * *
 私は、彼の前に手を広げてみせた。
 手のひらの上には、彼のシャープペンシルが乗っている。
「ほら、落ちてたんだよ」
 * * *

 ......シャープペンシルを拾ったというエピソードは、実は嘘なんだ。
 私は彼の筆箱からシャープペンシルをくすねたんだ。
 そうしないと、グループが私をイジメの標的にするからって。私は仕方なく行動に移したんだ。
 可哀想だという意識が拭えなかったから彼に返したけれど、一旦は傷つけたことには変わらない......。

 シャープペンシルで<嘘>の文字を書いてみた。

 その文字は消しゴムで容易く消すことができるけれど、実際に起こした出来事をなかったことにするのはできないんだ。
 彼が暗い教室の隅で泣いているなら、私は重い十字架を抱いていよう。
 一日いちにちを、生きていくために。