窓の外には黄色く色ずんだイチョウの葉が見える。
 その姿を横目に学校の図書室に入ると、そこにはたくさんの本を積んでいる彼の姿が見えた。
「何の本を読んでるの」
「......心理学」
 私が問いかけてみると、彼はあっさりと答えてくれた。あまり話しかけないでほしいという雰囲気を感じたものの、君と私との間柄だからと少しばかり聞いてみたのだ。
 彼はフロイトなど心理学者のことを話してくれた。私にとっては首を傾げたくなる内容だけど、つい君の瞳に惹きこまれた......。
 その瞳の色には、熱中している人の輝きが見えていたのだから。
 夏休みを終えてからというものの、彼の成長というものを感じている。
 中学生の頃に見た雰囲気は全く見せず明るく男子同士過ごしている。それでいて落ちた消しゴムを拾う気の利いた姿も見せていた。
 そして、君がヒーローのようにクラスに認識されたのは、体育祭の全員リレーだ。彼の追い上げは素晴らしく、まるで後ろから追い上げる競走馬のようだった。競馬はテレビでしか見たことがないのだけどね。
 その活躍があってこそ、我がクラスは学年で優勝することができたんだ。

 ある日、私は彼に呼び出された。
 でも、いわゆるデートのようなものじゃない。地元の図書館で一緒に勉強するだけだ。
 彼の成績は夏休みを迎えてから少しずつ上がっている。これといって苦手がないという教科はむしろ羨ましいところがあるんだ。
 図書館の静かな空気の中で、私はのんびりと数学の宿題をこなすだけのつもりだったけれど。彼は私の教科書を手に取り、なぜか教える立場になった。
 最初はたどたどしい言い方だったのが、少しずつ滑らかな言い方になってきて。先生ほど流暢じゃないけれど、どこか楽しい授業が広がっていた。
 どうしたの、と伺うと彼は少し照れくさそうに笑って答えた。
 「少し、喋れるようになれないかと思って」
 そうか、君はたしかに変わろうとしている。
 喋れないところをしっかり磨いて、授業以外にも自分のやりたいことを見つけて。
 ......自分はどうなんだろう。誰かが私に向けて、<不安>というサーブを打ったような感覚に陥った。
 
 帰り道に、私は一軒のお店に足を止めた。
 そこは結婚式場で、正面のウィンドウには純白のウエディングドレスが飾られていた。夕日に照らされた姿は、ゴールでもありスタートラインでもあるような。
 華やかな一日を飾る、主役のような輝きをまとっていた。
「......きれい」
 彼も足を止めてくれて、一緒にドレスを眺めていた。
 その時ばかりは、デートのときめきを感じていたのは秘密だよ。
 ......着てみたいなあ、という私の呟きを聞いたかどうか、彼は緊張しながら言ったんだ。
「君がこれを着るのを見てみたい。
もし、大学過ぎても、お互いに意中の人が居なかったら......」
 ......一緒に着よう、早口に言った彼の言葉はとても嬉しかった。
 いつか、そんな日が私に訪れてほしいと思ってしまったんだ。