ふっと苦笑が漏れる。
「まあね。一人で考え事をするときでさえ、なるべく僕という一人称を使うようにしていたから」
『さっすがー!徹底してますね!』
僕という一人称を使い始めたきっかけはSNSだった。ネット上では、誰もが普段の自分とは違うキャラで振る舞うことができる。
そこで私は、作家デビューした直後に勧められて始めたSNSで、特に深い意味もなく僕っ子キャラになってみたのだ。すると何故かそれがウケた。
そして出版社側から、作品と共に作家である私のキャラクターも発信していくという方向性を決められた。自分で言うのはさすがに恥ずかしいが、私は「美人僕っ子小説家」なのだ。
サイン会の時なんかについ“私”と言ってしまってがっかりされることがあるので、普段から咄嗟に“僕”を使えるように訓練中である。
純粋に小説を評価するのとは異なる売り出し方にモヤモヤすることはあるが、このキャラをきっかけに作品を見てもらい興味を持ってもらえるのなら、決して悪いことではない。多くの人の目に触れられることは、最終的な目標を達成する上でどうしても必要なことだから。