手術を控えていた私にはショックが大きいということで、その事実は伏せられていた。それを知ったのは、無事に手術が成功した後だった。
 手術の内容が当初と変更されていたのだということもそこで知った。
 佑馬はずっと前から『自分に何かあったら、心臓は莉桜に』という意志を家族に伝えていたのだそうだ。
 ──そう、今ここで動いている心臓は、佑馬のものだ。

『ていうか莉桜先生。毎年書いてらっしゃるその小説も、出来によっては出版できるかもしれませんよ』
「はは、魅力的なお誘いだけど遠慮しておく。これは佑馬の墓前に供えるためだけに書いている駄文だからね。発表する気はない」
『そっかぁ、残念』

 佑馬が死んで以来、毎年彼が主役の小説を書き、天国で読んでもらうために供えている。今の時代原稿用紙というアナログなスタイルを取っているのはこれが理由だ。
 しかし、出会った頃の思い出から書き始め、最後に会った日のことも書いてしまった。来年以降何を書こう。佑馬がもし生きていたらというif世界とかが良いだろうか。

『そういえば莉桜先生、すっかり“僕”っていう一人称が定着しましたね』

 無事原稿を受け取り余裕が出たらしい担当編集がそんなことを言う。