莉桜が息を飲んだ。僕の言おうとしていることを察したらしい。

「だから手術が終わった後、読んでもらいたい。ついでに文章が得意な君に推敲してもらえるとありがたい」
「意地が悪いね、佑馬。そんなの、何としてでも生きないとって思っちゃう」
「うん。生きていてくれ。これからもずっと」

 彼女は頷きはしなかった。
 代わりに、僕の頬に触れるだけのキスをして、抱きしめていた手を緩めた。

「好きだよ佑馬。キミが書く文章だけじゃなくて、キミ自身が大好きだ」
「……僕も、莉桜のことが」

 好き、という言葉を発するのと同時に、強い風が吹いた。
 桜の花びらが、風に乗ってぐるぐると舞う。
 だけどその言葉はきちんと莉桜に届いたらしい。彼女は優しい微笑みを浮かべた。

 桜の下で笑う君。
 最後の別れがお互い笑顔だったなんて、最高に素敵じゃないか──。