そうか。
僕はやっと気が付いた。
彼女は昔から何でも自信満々に話しているから、つい全てを悟って諦めている人なのだと勘違いしてしまう。だけど……
「そりゃ不安、だよな。そんな難しい手術」
莉桜が僕に会いたがったのは、僕の小説を読みたいからなんて理由じゃない。
不安で、押しつぶされそうになって、気を紛らわせるために僕と話そうと思ったんだ。
「……うん。成功率がすごく低いって。だけど放っておけばそれでも死ぬ。同じ結果なら抗った方がましだし、家族もそれを望んでる」
莉桜は、ぎゅっと僕を抱きしめた。
「佑馬の小説は、生命力に満ち溢れてる。だから読めば生命力を分けてもらえて、手術が成功するかなって思った」
「そっか。……持ってなくてごめん」
「ううん、いいの。だけどこれは言わせて。私はキミの書く文章が好き。有名な作家になれるって本気で思ってるよ」
僕はゆっくり、彼女の頭を撫でる。
「一つ、書き上げることができた小説があるんだ。それを、莉桜に一番に読んで欲しい」
「えっ」
「だけど一つ問題がある。その小説、すごく長いんだ。今日読み始めても、君はきっと手術が始まる日までに読み終われない」