莉桜は僕の書いた小説をいつも読みたがった。だけど僕が彼女に読ませたのは作品の一部分ばかりで、完成させた状態で見せたことはない。
「私の予想ではね、佑馬は絶対有名な作家になると思うんだ。未来の人気作家のファン第一号になって、あの世で知り合った人たちに自慢しようと目論んでいるの」
「買いかぶりすぎだよ。まず僕より君の方が文章が上手い。前に文芸部に遊びに来たときお試しで書いた短編小説、完成度が高すぎて部長が引いてた」
「ふふ、そんなこともあったね」
プライドをボロボロにされて打ちひしがれる部員たちの姿を、とても楽しそうに眺めていた莉桜の顔。多分二度と忘れない。
「でもさ、その私が佑馬の才能を保障してるんだから自信を持てば良いと思うよ」
「君は何目線なんだ……。そもそも僕は今、読ませることができるような作品を持っていない」
「ええっそんな。私の最後の頼みを無碍にしようっていうの?」
「だから最後って言うのやめろよ。莉桜の手術は成功する。」
僕ははっきりと、莉桜の目を見つめて言った。
彼女は少し寂しそうな笑みを浮かべる。
「そうだね。私は死ぬのは怖くない。だからって死にたいわけではないの。佑馬と会えなくなるのは嫌だ」