満開の桜の木の下で、僕は彼女を待っていた。

佑馬(ゆうま)!」

 待ち人は息を切らしながら登場した。僕は読んでいた文庫本を閉じ、慌てて幼なじみに駆け寄る。

莉桜(りお)っ、まさか走ってきたのか」
「だって早く会いたかったから」
「体のことを考えろって」

 莉桜は昔から心臓が弱く、幼い頃から入院を繰り返している。高校二年になってからも改善するどころか悪化の一途をたどっており、難しい手術が数日後に控えている。
 僕はそんな彼女から会いたいという連絡をもらい、こうして待ち合わせていたのだ。

「悪化したって今さらだよ。どうせ次の手術は失敗する。知ってるんだ私」
「おい」
「死ぬって案外怖くないよ。私にとっては昔から常に隣り合わせだったからね」
「だから簡単にそんなこと言うなってば」

 僕が何を言おうと莉桜には届かない。幼い頃から隣にいるけど、僕と彼女の見ている景色は違う。

「でもね、死ぬ前にやっておかないといけないことがあってキミを呼んだの」
「やっておかないといけないこと?」
「キミが完成させた小説を読みたい」

 僕は高校で文芸部に所属していた。幼い頃から物語を綴るのが好きで、小説家になりたいという密かな夢を持っている。