「川田ってさ、なんかいっつもだるそー」
 それな、周りの生徒も笑う。私は黙ってそちらを見る。そうすると、彼女らはこちらに一瞬目を向けて、話題を変えてまた話し始める。
 あー、だる…。
 高校へ入学してから、毎日のようにこんな出来事が続いている。あいつらもよく飽きないなと、感心する。よほど、私に興味があるんだろう。そう思っておくことにする。
 夏。始まったばかりの夏だけど、もう気温は三十度近い。暑い。思わず、カーディガンの袖を捲ってしまいそうになり、焦って手を止める。
 一日、私は誰にも話しかけられることなく時間を過ごす。授業中に当てられることはほぼ無い。理由は、よく分からない。きっと、私は影が薄いのだろう。
 早く放課後になれ、といつも思う。あんなうるさい奴らと同じ空気を吸いたくない。賑やかな一軍は、放課後になった途端に教室を飛び出していく。カラオケにでもいくのだろう。全く羨ましいと思ったことがない。周りに自分を合わせて、楽しんだフリをしてるやつばっかなんだから。俯いて、自分の手先をいじっていると自分の横髪が視界に入る。それが、どうも鬱陶しく、気に入らなくて、やや乱暴に耳にかける。
 黒くて、潤いが感じられないパサパサした髪。枝毛が目立つのが少し気になる。
 ま、どうせ見てる人なんていないか。
いつもそう思って、手入れしようとはしない。あいつらは、きっと毎日スキンケアやら色々にこだわって、金を注ぎ込んでいるのだろう。その生活に、少しでも幸せを感じてほしい。
 うちには、そんな金ないんだから。
 私の父は、私が幼い頃にお母さんと離婚して顔も何も覚えていない。ただ、お母さんには「酒とパチンコにしか興味がない男だったのよ」とだけ、伝えられていた。もちろん、いいイメージなんてなかった。
 お母さんは、女手一つで私を育てるためにパートを掛け持ちしている。だから、私が家に帰っても顔を合わせることはほとんど無い。偶然家で出会した時には、上から物を言ってきてムカついたから別に会わなくてもいいんだけど。
 でも、なんとなく家にひとり、というのは寂しい気がしていつも放課後の教室に残っている。


 そうこうしていると、授業終了のチャイムが鳴った。周りの生徒たちは友達と話しながら教室を出ていく。その中で、私は全員がいなくなるまでのんびり荷物を整理して待つ。