全面接を終えて、今回の面接官である私は変わらぬ笑顔のまま手元の履歴書を眺める。
 全部で四枚。神楽坂、佐藤、そして乾、山本の分だった。

「さて、合否は……」

 まずは『重役面接官役』の乾。リストラされたばかりでの再就職希望者。面接官としては途中黙り込んでしまう様子があったが、用意した高級品を上手く着こなして、本物の高級志向の神楽坂からも丁寧に接するべき相手として疑われることはなかった。
 使い古した時計や一見くたびれたネクタイ、会話の切っ掛けになるよう私物を衣装に取り入れていたのも相手への配慮があって良い。
 あの年代の男性は祖父役や会社関連等必要な場面が多い。今後もあらゆる役割に対応出来そうだ、よって『合格』。

 二人目の『面接官役』山本は、様々な人と接することで男性恐怖症の克服を目指して我が社を志望。面接官としてはコミュニケーション能力は不十分。だがあの場で神楽坂に距離を縮められて走って逃げなかっただけ、一次面接の時より成長。
 何より目標に向かって頑張る気概がある。二次面接は一応『合格』とし、三次に移り実地試験で最終合否を判定。合格の暁には、若さを活かして様々な派遣に対応して貰おう。

 佐藤は『面接官役』ではなく『ライバル役』としての二次試験。接点は面接前後の僅かな時間。相手に気取られてはいけない上、同じ会社を受けるライバルだ、勿論最初の印象は良くない。
 しかしそれを巻き返して、面接後の僅かな接触であの神楽坂に友人と認識されたようだ。文句なしの『合格』だと言える。彼には即戦力として働いて貰うことにしよう。

 我が社はあらゆる人材を派遣する。それこそ一般的な人手不足の企業からの要請から、個人のニーズに合わせた『親役』や『恋人役』まで様々だ。
 職員は、その為に必要なコミュニケーション能力や、役に徹するだけの適応力を重視している。それ故に、採用の段階で、面接される側でも『面接官役』を演じ、様々な角度からの立ち回りを見るのだ。

 今回は『一次面接』である神楽坂スバルをターゲットとして、二次面接以降の乾、山本、佐藤の三人があらゆる役を以て接した。
 そして、面接を見ている限り、神楽坂は価値観の完成された『神楽坂スバル』という役以外を、恐らく演じられないだろう。職員としては『不合格』だ。

「……でもまあ、彼程の個性も珍しい」

 彼は職員としては不合格。ただし、他の人材育成の為の試金石に使うには、向いているかもしれない。自信を崩せば少し不安定になるようだったが、すぐに持ち直す彼ならば、多少のことでは壊れないだろう。

「人の使い道は様々です。あなたにも役立って貰いますよ……神楽坂さん。全ては、我々を必要としてくださる皆様の笑顔の為に」

 彼は合格したとして、人に使われるのを良しとしないだろう。けれど、神楽坂家には秘書として鈴木も派遣している。融通も利くはずだ。

「プライドの高い我が儘息子を真人間にすると言えば、神楽坂さんのお父上も納得されるでしょう……まあ、下手して廃人にならぬよう、調整はしなくては……佐藤さんに最初の任務として『友達』のフォローを頼みますかね……」

 私は変わらぬ笑顔のまま、優秀な人材を育成する為のプランを練る。そうして四枚の履歴書には、それぞれスマイルマークの合格印を押したのだった。