そう。庇護だ。
ミツハの新菜に対する態度はまさしく庇護だ。天雨家から贄として差し出された娘を、延命の恩があるからと言って拾った、まさしくそれだ。新菜は自分のミツハに対する考察にやっと納得がいく。
(じゃあ、ミツハさまは庇護の感情を恋だと言い張って、私をどうしたいのかしら……)
神さまの慈愛を考えれば庇護も恋なのかもしれないが、人間の新菜には少し受け入れがたい。新菜にも湖で死ななければならなかったところを救ってもらった恩があるから強くは主張できないが、今まで地の民に顧みられなかった時間が長すぎて、ちょっと自分に有利に働いてもらったから、その反動の感情を勘違いしているのではないか、と思ってしまう。
だって今だって。
宮に戻って来る新菜を見て頬を染めたりしない。思えばミツハが赤くなったところを見たことがない。天雨家の使用人たちは恋焦がれる相手のことを懸想するだけで頬を染めていたから、やっぱりミツハは感情を勘違いしているのだろう。
大体、新菜は見目も悪いし、何と言っても痩せぎすで、女としてというより人間としてまず肉が付いていない。そんな成りの女を、この見目麗しい、地の民のことならすべからく知っている神さまが好くわけがないのだ。
それでもここ以外の何処にも行き場のない新菜にとって、ミツハの感情がどうであろうと、ミツハが求めるように嫁になるしかないのだろうな、と思う。
(なにを、求められているのだろう……)
ミツハの思いが恋情でないなら、何故新菜を花嫁に求めるのだろう。清き心で巫女姫として契約するなら、巫女姫であればいいだけのことだ。花嫁にするまでのことがあるだろうか? 事実母は、お声を賜ったのだから巫女姫であったけど、花嫁にはなっていない。何がミツハに、新菜を花嫁にしたいと思わせているのか、それが不思議だった。
(花嫁にならないと出来ないことが、何かあるのかしら……)
疑問を抱えたまま宮に戻り、みなで庇の下でくつろぐ。のんびりとした様子のミツハを見て、新菜も取り敢えず疑問は横に置くしかなかった。冷えてますからどうぞ、と茶と葛の盆を差し出すチコに礼を言って、湯呑を取る。朗らかな日差しの中の作業だったが、なにぶん広さが天雨家の比ではなかったので、時間もかかり、冷えた茶が体に心地よかった。
それに神力で作られた飲食物は、以前食べていたものよりも勿論美味しいし体に染みる感じが心地いいが、摂取するとその場で力が湧くのが分かる。これも神さまの力故なのだろうか。
「ミツハさまの出してくださる食べ物は不思議ですね。ふつふつと力が湧きます」
新菜がそう言うと、ミツハは目を細めて、そうかと笑みを深くした。
「私から作られるものだ。それを食して新菜が元気になるのなら良かった」
この語らいだって、母が生きていた頃までの家族の会話だ。恋、とは違うのではないかな、とやはり思ってしまう。
「だからと言って、無駄遣いはどうかと。食事は三食あれば間に合います。今は地の民からの祈りが少のうございます。無駄なご使用は切にお控えください」
鯉黒の忠告だ。ミツハは手痛いな、と笑っている。でも鯉黒の言うことが事実なら、本当に無駄遣いは止めて欲しい。新菜も食事だけで力が湧くし。
茶と共に葛も食べきってしまうと、新菜はミツハに尋ねた。
ミツハの新菜に対する態度はまさしく庇護だ。天雨家から贄として差し出された娘を、延命の恩があるからと言って拾った、まさしくそれだ。新菜は自分のミツハに対する考察にやっと納得がいく。
(じゃあ、ミツハさまは庇護の感情を恋だと言い張って、私をどうしたいのかしら……)
神さまの慈愛を考えれば庇護も恋なのかもしれないが、人間の新菜には少し受け入れがたい。新菜にも湖で死ななければならなかったところを救ってもらった恩があるから強くは主張できないが、今まで地の民に顧みられなかった時間が長すぎて、ちょっと自分に有利に働いてもらったから、その反動の感情を勘違いしているのではないか、と思ってしまう。
だって今だって。
宮に戻って来る新菜を見て頬を染めたりしない。思えばミツハが赤くなったところを見たことがない。天雨家の使用人たちは恋焦がれる相手のことを懸想するだけで頬を染めていたから、やっぱりミツハは感情を勘違いしているのだろう。
大体、新菜は見目も悪いし、何と言っても痩せぎすで、女としてというより人間としてまず肉が付いていない。そんな成りの女を、この見目麗しい、地の民のことならすべからく知っている神さまが好くわけがないのだ。
それでもここ以外の何処にも行き場のない新菜にとって、ミツハの感情がどうであろうと、ミツハが求めるように嫁になるしかないのだろうな、と思う。
(なにを、求められているのだろう……)
ミツハの思いが恋情でないなら、何故新菜を花嫁に求めるのだろう。清き心で巫女姫として契約するなら、巫女姫であればいいだけのことだ。花嫁にするまでのことがあるだろうか? 事実母は、お声を賜ったのだから巫女姫であったけど、花嫁にはなっていない。何がミツハに、新菜を花嫁にしたいと思わせているのか、それが不思議だった。
(花嫁にならないと出来ないことが、何かあるのかしら……)
疑問を抱えたまま宮に戻り、みなで庇の下でくつろぐ。のんびりとした様子のミツハを見て、新菜も取り敢えず疑問は横に置くしかなかった。冷えてますからどうぞ、と茶と葛の盆を差し出すチコに礼を言って、湯呑を取る。朗らかな日差しの中の作業だったが、なにぶん広さが天雨家の比ではなかったので、時間もかかり、冷えた茶が体に心地よかった。
それに神力で作られた飲食物は、以前食べていたものよりも勿論美味しいし体に染みる感じが心地いいが、摂取するとその場で力が湧くのが分かる。これも神さまの力故なのだろうか。
「ミツハさまの出してくださる食べ物は不思議ですね。ふつふつと力が湧きます」
新菜がそう言うと、ミツハは目を細めて、そうかと笑みを深くした。
「私から作られるものだ。それを食して新菜が元気になるのなら良かった」
この語らいだって、母が生きていた頃までの家族の会話だ。恋、とは違うのではないかな、とやはり思ってしまう。
「だからと言って、無駄遣いはどうかと。食事は三食あれば間に合います。今は地の民からの祈りが少のうございます。無駄なご使用は切にお控えください」
鯉黒の忠告だ。ミツハは手痛いな、と笑っている。でも鯉黒の言うことが事実なら、本当に無駄遣いは止めて欲しい。新菜も食事だけで力が湧くし。
茶と共に葛も食べきってしまうと、新菜はミツハに尋ねた。