英明くんと泳ぐ街は、高校生の頃の街と今の街がまざった、そんな街だった。好きだった本屋さん、最近できたお気に入りのカフェ。そんなお気に入りが詰まった、私の好きな街だった。
 英明くんが連れてきてくれたのは、街の繁華街にあるホテルだった。由緒あるホテルで、多くの結婚式や高校の同窓会は、この大広間で行われている。英明くんが連れてきてくれたのも大広間だった。
 この空間はなんとなくしか覚えていない。入口を入って横長の空間で、天井には大きなシャンデリアがいくつも下がっている。壁紙は落ち着きと明るさを両立したオフホワイトで、床の絨毯は茶色を基調としたオシャレな花柄になっている。
 「飲みなよ。なに飲むの?」
 「まず、ビールで。」
 大きな広間の橋の席について、英明くんはやはり左側から私に飲み物を差し出してくれた。英明くんもビールだ。
 「乾杯。」
 「乾杯。」
 英明くんは乾杯だけでビールを飲み干す勢いだ。普段は一口飲むくらいだけれど、ペースを合わせるために半分くらいまでごくごく飲み進めていく。
 「よく飲むね。次、なに飲む?」
 「うーん。英明くんと同じで。」
 「わかった。」
 いつも家で一人で飲む時と同じく、ポテチをつまみに次の飲み物が来るまで残りのビールを飲み進める。
 「で、答え、出そう?」
 「え、あー、うーん。」
 そうだ。私は告白されて、その答え探しにこうやってデートに出てきているのだった。
 「じゃあ、彼氏に求めることって何かあるの?」
 「自己中は嫌だね。あと、私をバカにするような人も嫌。」
 そんな話をしたところで、白ワインが入ったグラスが2つ、届けられた。また英明くんは一気飲み。私も負けじと2口ほどで飲み干す。
 「そんなやつ、男っていうか、人として終わってない?」
 「冷静に考えればね。元彼がそういう奴だったの。」
 「『元』ってことは別れられたのか。正常な判断ができて、よかったよ。」
 英明くんは3杯目の赤ワインを一気飲みする。私も今度は一気飲みで追いつこうとする。
 「実はね、高校生の頃からずっと好きだったの。」
 「え?」
 一気に3杯も飲んだせいか、饒舌になってきた。
 「どんどん振られていく女の子たち見てて、振られるくらいなら見ているだけでいいやって、ずっと言っていなかったけど、好きだったの。」
 「そうだったのか。」
 空いたワイングラスはいつの間にかどこかに居なくなり、今度はロックのウイスキーが私たちの喉をうるおす。英明くんもさすがに一気飲みとはいかないようだ。一口ずつ味わいながら、それでもやはりハイペースで飲み進めていく。
 「じゃあ、僕も言えばよかった。」
 「え?」
 「僕も高校生の時からずっと好きだった。」
 「ホントに?」
 信じられない告白に、手元にあるウイスキーを全て飲み干してしまった。
 「ホントだよ。好きな人としか付き合いたくなかったから、全員断っていたんだ。言ってたら付き合っていたのかな?」
 「どうだろう。」
 新たに用意されたロックのウイスキーを一口飲んでみる。
 「英明くんは誰もが認めるスターだけど、私はただの高校生だったから。そんな不釣り合いな2人が付き合っているなんて…。後ろ指刺されるのが怖くて付き合えなかったと思う。」
 もう一度ウイスキーを飲むと、もう空になってしまった。
 「じゃあ、もう少し早く、会いたかった。」
 「なんで?」
 聞いても英明くんは答えてくれなかった。もう何杯目かもわからないロックのウイスキーを一気飲みする。
 「なんで教えてくれないの?」
 英明くんはうつむいたまま、私から遠ざかっていく。さっきまですぐ隣にいたのにもう手が届かないところまで離れてしまっている。どうして、どうして?
 なんだか胸もお腹も気持ち悪くなってきた。

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