***
黒板の文字を写している。正確には写そうとしている。
前の席に背が高い男子がいて、なにを写さなくてはいけないのかがよくわからない。ちょっとずつ首を動かして一生懸命のぞくけれど、やはり1行目がわからない。2行目は、
「夢と知りせば覚めざらましを」
そう書いてあるのは読めるけれど、どうしても手が言うことをきかない。何度も字を間違えて、その度に消す。その繰り返し。
「先生、意味は?」
前の男子が質問した。声を聞いて確信したが、こいつは間違いなく高橋だ。
「さて、どうでしょう? わかる人!」
わかる。のどのそこまで、答えが出ているのに、なかなか言葉にできない。言おうとして口を開いても、声が出てきてくれない。
「先生、オレわかります。夢だと知っていたら、覚めなかったのにな。ですよね。」
「よくわかりましたね! その通り!」
わかっているのに質問して、答えをかっさらっていく。本当に自分のことしか考えてないやつだ。
次はパソコンの授業だ。
教室からほぼ対角の4階まで移動しなければならないのに、休み時間は均等に10分間。しかも、なんだかトイレに行きたい気分でもある。
なのに、進もうとしてもなかなか進めない。パソコン室に若干近い、教室前側の出入り口でタムロしているやつがいる。
また高橋だ。
「どエ…ない?」
「あ? なんて言ってんだ?」
「だかア、どエエ…?」
「あ?」
何度お願いしても、無駄だった。私の「どけてくれない」はさっきの答えみたいに、口から出て行ってくれない。頑張って声にしようとしても、かけらも声が出せないでいた。それに答える高橋の表情は、誕生日のそれだった。私のことを見下して、笑って楽しんでいる。そうやって自分が良ければそれでいい人だった。
なんとか、授業に間に合わなくてはいけないと、もう一度、渾身の力を込めて言葉にする。
「どけて!」
黒板の文字を写している。正確には写そうとしている。
前の席に背が高い男子がいて、なにを写さなくてはいけないのかがよくわからない。ちょっとずつ首を動かして一生懸命のぞくけれど、やはり1行目がわからない。2行目は、
「夢と知りせば覚めざらましを」
そう書いてあるのは読めるけれど、どうしても手が言うことをきかない。何度も字を間違えて、その度に消す。その繰り返し。
「先生、意味は?」
前の男子が質問した。声を聞いて確信したが、こいつは間違いなく高橋だ。
「さて、どうでしょう? わかる人!」
わかる。のどのそこまで、答えが出ているのに、なかなか言葉にできない。言おうとして口を開いても、声が出てきてくれない。
「先生、オレわかります。夢だと知っていたら、覚めなかったのにな。ですよね。」
「よくわかりましたね! その通り!」
わかっているのに質問して、答えをかっさらっていく。本当に自分のことしか考えてないやつだ。
次はパソコンの授業だ。
教室からほぼ対角の4階まで移動しなければならないのに、休み時間は均等に10分間。しかも、なんだかトイレに行きたい気分でもある。
なのに、進もうとしてもなかなか進めない。パソコン室に若干近い、教室前側の出入り口でタムロしているやつがいる。
また高橋だ。
「どエ…ない?」
「あ? なんて言ってんだ?」
「だかア、どエエ…?」
「あ?」
何度お願いしても、無駄だった。私の「どけてくれない」はさっきの答えみたいに、口から出て行ってくれない。頑張って声にしようとしても、かけらも声が出せないでいた。それに答える高橋の表情は、誕生日のそれだった。私のことを見下して、笑って楽しんでいる。そうやって自分が良ければそれでいい人だった。
なんとか、授業に間に合わなくてはいけないと、もう一度、渾身の力を込めて言葉にする。
「どけて!」