「もう全部忘れちゃわないとな」



ポツリと呟いた。

その時だった。



「佐山さん?」



どこかで聞いたことがあるような声に名前を呼ばれた。

声のした方に顔だけ向けて、言葉を失った。



「シュウ、さん……?」



長めの前髪に、筋の通った高めの鼻。

今まで暗いところでしか見たことがなかった好きな人が、そこにいた。



おかしい。彼はもう来ないと言っていた。

そもそも私の作りだした幻だったはずだ。



しかし私は、すぐに自分の間違いに気がついた。

今目の前にいる彼は、顔立ちや全体の雰囲気、声などがシュウさんそのものだ。なのに、どう見ても年齢は私と同じぐらいである。

それに、シュウさんは私の苗字なんて知らない。



私に見つめられる彼は、驚いたように目を見開いた。