家に着き、お母さんがまだ帰ってないのを確認してから自分の部屋の押し入れを開ける。奥に仕舞い込んだ箱の中のマニキュアの瓶を取り出し、私は息を吐いた。
 光に透かして揺らすときらきらと真珠みたいに輝くこのマニキュアを見つけた時、私はすぐに手に取ってしまって、どうしても手放すことができなかった。
 大切なものをお母さんに知らせないためには、そもそも作らないのが一番いい。こんな風に素敵なものに飛びついて、そして捨てられたことが何度あっただろう、わかってる。買わない方がいいってわかってた。それでも手放せなかった。
 結局、私はそれを買ってこっそり家に持って帰り、時々部屋の中でつけては眺め、すぐに落としている。昨日はうっかり忘れてしまったけど。


「気をつけないと……」


 お母さんに見つかってしまったら、と思うと反射的に怖くなってしまう。
 学校につけて行ってしまったということは朝もつけたままだったということだ。気づかれなかったのは運が良かった。
 お母さんは私がマニキュアを塗っていることなんて何も知らない。絶対に気づかれたくないと思っている。
 ぎゅ、と瓶を手のひらで包み込みながら思う。だからこそ、佐久間くんが除光液を貸してくれて本当に助かった。


「ちゃんとお礼、言わなきゃ」


 何故か私の方がお礼を言われてしまったのだから、返す時にはちゃんと言わないと、と私は自分に言い聞かせた。