タオルケットを卒業させられた日から、卒業という言葉が嫌いになった。
 赤ちゃんの時から使っていた、それじゃなきゃ眠れなかった私のタオルケット。真っ白なタオルケットの端っこに赤い蝶が描かれていて、大好きだったのにお母さんは捨ててしまった。
 もう赤ちゃんじゃないんだから、タオルケットは卒業しなきゃ。お母さんは笑ってそう言った。
 お別れも言えず無理やり「卒業」させられたのはタオルケットだけではない。その歳で使うには幼いとお母さんが少しでも思ったものはすぐに捨てられてしまう。
 お母さんに悪気はないのだ。悪気がないからこそ私が泣こうが喚こうが悪いことをしたとは思わない。子どもの成長のためには仕方ないと割り切っている。私がどれだけ、どれだけ悲しんだかも知らず。
 だからいつしか私はお母さんに大切なものを見せないように、教えないようになった。
 知らないものを「卒業」させることはできないから。