私が先生との思い出に浸っていると、突然鳴上先生は紙袋を出して来た。

「なんですか? これ」
「やる」
「え?」

私は首を傾げつつも紙袋を受け取り、先生に目で問うてから中身を確認した。

「ホワイトデーだから」

桜型のチョコレートが入っていた。

 明らかに、私の苗字から選んだ商品だろう。親父ギャグみたいで、笑ってしまう。それから――

 すごく、嬉しい。

「ありがとうございます……」

私の言葉を聞いて、鳴上先生は優しく笑っていた。

「……学年で授業二クラスしか持ってないし、何も思わないと思ってたんだけどなぁ」

最後の授業として、課題プリントでわからないところを教えて貰った後。帰る支度を少しずつする鳴上先生と喋っていたら、突然そんなことを先生が言った。

 教師人生最後だと思うと、昨日の私のクラスの授業で思うところがあったらしい。

「良かった」
「ん?」

私の言葉に、鳴上先生が首を傾げた。

「思うところがあったってことは、それだけ私達の学年に何かしら思い入れがあったってことですよ。きっと」

「……」
鳴上先生は黙っている。

「……私たちが想って貰えたのも嬉しいですし、先生が寂しい教師人生の最後を迎えなくて良かったです」

「……そうだな」