笑いながら、いつも通りの軽快なお喋りが、私には心地よくてたまらない。とても、楽しい。

「お、ちゃんと課題やってるな?」
「はい。授業わからないと来年困るんで」
「次は三年だもんなぁ。頑張れよー受験生」
「はい……」

先生の頑張れよ、がどこか遠く感じて、私の声のトーンが下がる。三年になる頃には、鳴上先生はいないのだと実感してしまった。

「先生、いなくなっちゃうんですね……」

「よく知ってるな。クラスの誰かから聞いたか?」

「卯月さんが教えてくれました……」

「んー、誰だっけ?」

あ、この先生人の名前は覚えられないって最初の授業で言ってたっけ。あの時は歳のせいにしてたな。


 ……随分と懐かしいことを思い出した。

「一年間教えても覚えてないんですか?」

「そうなんだよー、二クラスしか授業無いから、覚える人数もたった八十人で他の先生より圧倒的に少ないんだけどなー」

 佐倉以外、覚えられんかったなぁ。
 そう続いた言葉に、不覚にも感極まる。

 私だけ、なんて嬉しいじゃないか。どこの少女漫画の台詞引用してきたんだ。

「古文でわからんところあったら教えるぞ。そうしたらこれが最後の授業だからなぁ」

「先生、意地悪ですね……」

鳴上先生はいたずらっ子のような無邪気な笑顔を向けている。

「はぁ」

私は思わずため息を吐いた。