昨日、相澤先生が午前授業になったと言っていたから、今日はいつもより早く相澤先生が来るんじゃないかと思ったのだ。

 人前に出れるような少し余所行きの服だ。髪も整えて、身だしなみはなんとか整えた。

 それからしばらくはベッドの上で過ごす。
 課題をやっていると、ノックの音がした。

 珍しい。有馬病院では患者の異変に気付けるように、基本的には病室の扉を閉めないルールだからだ。

担当医で医院長の息子でもある有馬(ありま)友稀(ゆうき)先生にも、着替え等以外では扉を閉めないように言われている。

 控えめな性格の人がお見舞いに来てくれたのだろうか。個室だから、自分以外へのお見舞いと言うことも無い。

「はーい、どうぞー」

ペタペタと独特の足音に気付いて、私は顔を上げた。

「え……」
「よぉ。元気か?」

「えっ!? なんでっ。じゃなくて! はい! 元気ですっ」

「慌てすぎだろぉ」

ノックをしたのは鳴上先生だった。ゆっくりと先生は病室に入って来て、いつものように穏やかに笑っている。その笑顔に安心して、少しだけ落ち着くことが出来た。

「そりゃ驚きますよっ! 先生が来るなんて聞いてないし。でも、嬉しいです」

「ん。いつも通り、その騒がしさなら元気だな」

「失礼な! ま、怪我したのは足だけで、他はどこも悪くないですからね」