先生の独り言に、先生らしいと思う。教師を辞めても、独り言まで何かを誰かに教えるような内容ばかりだ。

 私は先生の言葉を聞きながら、納得して並木道を歩く。

 ――昨日の雨は、散らす雨じゃなくて、ここの桜にとっては咲かせる雨だったのね。


 並木道の終わりは、小さな公園に続いていた。

 公園の中央には桜の木。その木の下にベンチがある。

「一休みしていくか」

先生は猫を見下ろして、私に笑いかけてくれた。

 先生がベンチに腰掛けて、足をぶらぶらさせている。

 ――子供みたい。
 私はそっと微笑んだ。

 春の風に吹かれながら、先生はどこか遠くを見つめて、ぼーっとしている。

 考え込んでいるというか、物思いにふけっているようだった。

 そっとしておこうと、私は先生に寄り添って黙っていた。

 猫の視点になって、首が痛いくらい上を向いて、やっと桜を見上げることができる。

 公園の中央の桜の木はとても大きく立派だった。春の風にそよそよと揺れる枝が、暖かい気持ちにさせてくれる。

 ここに来るまでの桜並木も綺麗だったけれど、空に向かって伸びる堂々とした一本の桜の大木の方が、私は好きだった。

 なんだか、明るくなれる。前を向ける気がするから。