（そもそも、目途なんかつけなくても勝手にぼろを出してくるだろ）
だいたい、こういう“呪い”だの“幽霊”だののは話は、痴情のもつれがややこしくなってしまっているのが定石だし、そもそも犯人はあの中にいない事は確実なのだ。――嗚呼、でも。
（先輩の推理は聞いてみたいかもしれない）
「先輩はどう思う？」
「何が？」
「犯人。誰だと思うっすか？」
先輩の驚く顔を見て、俺は内心ほくそ笑む。これで先輩が頓珍漢な事を言ったら揶揄ってやろうという魂胆だった。まあ当たっていても外れていても、人の推理を聞くのは楽しいのだから問題はないだろう。小説を書いたり読んだりしている彼の独創的な発想を期待して、俺は先輩の言葉を待つ。
「犯人って……今ほとんど推理できる情報ないんだけど」
「そんなことないっすよ！　ね、誰がいいっすか！」
「何か違う意味に聞こえてくるから嫌だな、それ」
苦笑いを零す先輩に、ワクワクした気持ちを隠さず彼を見つめる。難しい顔で悩んでいるが、彼はちゃんと答えてくれることを、俺は知っている。
（だって異常なほど優しいからな、この人）
それこそ、こんな突飛でもない事に巻き込まれても、文句の一つすら言って来ないほどには。まあ、彼自身、こういう“非日常”に興味があるようだから、拒否しないのもわかるけど。
「うーん……そうだなぁ」
（ほら、やっぱり）
彼は優しいから、どんな無茶振りでも答えてくれるんだ。
「僕はみなみ京さんかなと思ってる」
「みなみ……？」
「えっと、あの目が大きな人」
先輩は記憶を辿りながら、そう告げる。……もしかして、紀偉のことだろうか。
「もしかして、京紀偉のこと？」
「た、ぶん……？」
「先輩、もしかして人の名前覚えるの苦手っすか」
「うっ」
（あ、図星か）
呻き声を上げさっと視線を逸らす彼に、俺はふつふつと込み上げる笑みを浮かべる。嗚呼、やっぱりこの人は面白い。
「ま、まあそれはいいだろ！　そんなことより、僕の意見を聞いたんだから、最後まで聞けよ」
「もちろんっす！」
「……調子狂うな、もう」
彼の言葉にグッと親指を立てれば、深々とため息を吐かれた。どうかしたのだろうか。
「僕がみなみ京さんだと思ったのは、単に彼女の性格から推測した面が多いんだけど……」
――先輩曰く。彼女は岡名に心を寄せている。その為、婚約者である真偉を疎ましく思っていた。だから嫌がらせをしてみたりしていたけれど、同じサークル内では問題にすら上がらない。それに煮を費やした彼女は、知り合いに頼んで大々的にやり始めたのではないかと。