幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、専門学校、あるいは就職、私たちにはこのように過程がある。その過程が終わっていくたび、私は戻りたいと思ってしまう。小学生になるとなんでもわがままを聞いてもらえる幼稚園の頃に戻りたいとか、中学生になった時、勉強をあまりしなくても良かった小学生に戻りたいとか、とにかく過去にとらわれてしまう。

私の名前は山本 紗菜(やまもと さな)、先月中学生になったばかりだ。小学生の頃、中学生を見た時、キラキラしていて大人っぽくて憧れていた。だけどいざ中学生になると思ったよりも普通だった。ただ勉強が難しくなったり、校則が厳しくなったり、嫌な事だけが増えていった。それに私は嫌いな先生ができてしまった。その先生は数学の先生で、皆からも嫌われていた。厳しくて、すぐに怒ってくる。本当に苦手だ。その先生のせいで学校を休みたくなった日だってあった。だけど休んでしまうと勉強に追いつかなくなってしまい、結局自分にかえってくる。ただでさえ勉強が出来ないのにもっと追いつかなくなってしまう。だから私は頑張って学校に行く事にした。

「おはよー紗菜ちゃん!」

この明るい声は村上 美桜(むらかみ みお)だ。柔らかい茶髪の髪で、目がクリクリしていて、スタイルも良くて可愛くて女子や男子からも人気が高い。私には美桜ちゃんが光って見えた。こんな私に挨拶してくれるなんて優しいな。

「あ、美桜ちゃん! おはよう」

私は挨拶をするといつものように本を読む。全体的に女子とは話せるが、一緒に行動したりする事はあまりない。喋りかけられたら話す程度のものだ。たまに私から話しかける時もある。休み時間や移動教室に行く時だっていつも1人で行動している。孤独だなとか寂しいとかぼっちだなんて思った事がなかった。でも周りの子は私を見てどう思ってるのだろうか。あの子ぼっちじゃんとか思われているのだろうか。まあどうでもいいか。

入学してからクラスにもだいぶ慣れ始め、落ち着いてきた。1限目の授業は数学だった。嫌だな、もし先生の機嫌が悪かったら、その授業の雰囲気はもう最悪だ。

「ガラガラガラ」

先生が教室に入ってきた。先生の様子を伺いながら教科書を机から取り出す。どうやら今日は大丈夫そうだ。しばらく授業を受けていた。そして練習問題を解く時間になり、先生が生徒を当てて、答え合わせをする。どうか私を当てないでください。私は心の中でそう呟き、神様にもお願いした。だけど今日はついてないみたいだ。最後の最後に当てられてしまった。

「はい、山本さんここの答えは?」

「えーと」

私は丁度この問題だけ解けなかった。私は申し訳ないように先生に目を合わせた。先生は少し呆れていた。

「じゃあ山本さんこの問題は?」

最悪だ、違う問題を出してくるとは思ってもいなかった。しかも全然答えが分からない。私は今やっている単元が特に苦手なのだ。

「すみません、分かりません」

「問題が解けるまで立ってなさい」

もう本当に最悪だ。私はこれまで先生に怒られずに生きてきたので、怒られてしまい少し涙が出そうになった。周りの皆も私を見て気まずそうにしている。私は皆から頭が良さそうだねと言われてきたので、複雑な気持ちになった。だいたい人を見た目で判断するなって感じ。まあ仕方がないか、私は地味であまり話さないし、いつも本とか読んでるしね。真面目な子だなと思われて当然だ。この先生は分からない問題があれば分かるまで立たされる形式だった。どうしよう........。すると隣の席の佐野 朝陽(さの あさひ)が小さく私に答えを教えてくれた。

「そこは9X+4だよ」

「え? ありがと」

「山本さん早く答えてください」

「えっと9X+4です」

「はい、合ってます。座ってください」

あー、やっと座れた。私は佐野にもう1度お礼を言った。佐野は明るくて優しいけど少し先生に怒られてたり......。だけど本当に助かった。そしてチャイムが鳴り、授業が終わった。すると佐野がニヤニヤして喋りかけてきた。

「山本って意外に頭悪いんだなっ」

「うん、私実は頭悪いんだよね〜」

「なんか安心したわ」

なんで安心?やっぱり頭いいって思われてたんだね。皆に私が頭悪い事ばれちゃったよ。私ってなんの取り柄もないな。絵も上手くないし歌も運動も勉強も全然出来ない。もう最悪なんですけど。隣の席とはいえども、佐野と話す機会はあまりなかったので、なんだか嬉しかった。

「山本って何部だっけ」

「私は部活入ってないよ」

「そうなんだー」

「佐野は確かテニス部?」

「うん。そうだよ」

凄いなー、運動部なんて私には絶対に無理。走ることもあまり好きじゃないし、先輩とか上下関係とか怖そうだし。怒られたくないし。帰りが遅くなって自分の時間が削れる事も嫌だ。私も最初は文化部に入ろうと思ったが、いまいちだったので結局部活に入らなかった。

あっという間に他の授業も終わった。早く帰ろうと思い鞄を取った。そして階段を下りて校門を通り、しばらく歩いていた。やっぱり小学生の頃に戻りたいな。校則も緩くて遊び放題だったのですごく楽しかった。友達と公園で遊んだり、夜遅くまでゲームをしたり楽しかったな。中学生になって中間テストや期末テストがあり点数が悪いと成績にひびいてしまうのでテスト前は勉強に専念しなければならない。そんなことを考えていたらあっという間に家に着いた。

「ただいま〜」

「おかえり〜!」

お母さんが出迎えてくれる。

「学校はどうだった?」

「普通だよ」

私は廊下を歩いて自分の部屋に行く。鞄を置いて本を読み始めた。今読んでいる本は主人公が転生してその国の王になるという話だ。最近は転生系が多く、読者の私も惹き込まれてしまう。しばらくするとお母さんの声が聞こえてきた。

「紗菜〜夜ご飯できたわよ」

「はーい」

今日の夜ご飯はなんだろう。そう考えながらリビングに向かう。どうやら今日はカレーのようだ。テーブルに座り、お母さんとお姉ちゃんと一緒になにげない会話をしながら食べる。お父さんは、私の小さい頃に離婚してしまい顔も知らない。皆が食べ終わり、私も食べ終わった。お姉ちゃんは私たちの食器を洗いに行った。お母さんはリビングの掃除をしている。私は自分の部屋に戻った。私は家事など自分からすすんでやろうとは思わない。だって誰かがやってくれるし、めんどくさいからだ。

私は自分の机に座り、宿題にとりかかる。ワークを鞄から取り出して鉛筆を持ち、手を動かす。皆はこのワークを淡々とこなせるのかな。私なんて1時間はかかってしまう。よし、やっと最後の問題が解けた。私は明日の授業の用意をして、お風呂に入りに行った。私には楽しみがあり、気分によってお風呂にバスボールを入れるというものだ。今日はスッキリしたいので柑橘系の香りの物を選んだ。ふー、凄く疲れが取れる。香りが鼻を通り、全身を満たしていく。そろそろのぼせてしまうのでお風呂から上がった。髪をドライアーで乾かし、リビングで水を飲みに行った。するとお母さんが私に話しかけきた。

「ねえ紗菜、今週の日曜日空いてる?」

「空いてるよ」

「良かった、じゃあ家族でショッピングモール行かない?」

「え、うん分かった」

私は正直ショッピングモールがあまり好きではない。だってお母さんやお姉ちゃんの服選びや化粧品選びなど長い時間待たされるし、私は服や化粧には興味がないのでつまらないからだ。断ろうと思ったが、こういう時は必ずカフェに寄るので行かなければ美味しいスイーツが食べれない。だから行くことにした。お母さんはウキウキしながらお風呂に入りに行った。私は部屋に戻り、本の続きを読んでいた。そろそろ眠くなってきたので部屋の明かりを消し、ベッドに入って目を閉じた。

日曜日になり、お母さんと私とお姉ちゃんでショッピングモールに行った。人はそれほど混んでいなかった。さっそく私たちは服のお店に入っていった。お母さんとお姉ちゃんは楽しそうに服を見ている。私はどこが楽しいのかさっぱり分からなかった。お姉ちゃんが私に話しかけてきた。

「紗菜〜これとあれどっちの服が似合うと思う〜?」

あー、始まった。こういうことを聞いときながら本当はもう自分の中では決まってるというよくある展開だ。私は適当に言う事にした。

「そっちかな」

「えー、そうかな? 迷う〜」

やはり結局こうなる。次はお母さんに呼ばれた。

「紗菜、あなたもなにか選んでちょうだい」

「はーい」

私が手に取ったのは黒のワンピースだ。私はいつも目立たないように、モノトーンの色の服をよく着ている。なのでお母さんやお姉ちゃんからいつも地味だと言われてしまう。だいたい2人は派手すぎるのだ。どうしてそんな服を着れるのだろうか。私には絶対に似合わないし、着ようとも思わない。

しばらく色々なお店を見てカフェに行く事になった。やはり予想は的中した。すごく楽しみだ。早く着かないかな。しばらく歩いているとカフェらしき建物が見えてきた。

カフェに入ると花など植物が飾ってあり、とてもオシャレだった。何を注文しようかな、迷ったが私はパフェを頼んだ。しばらくするとお店の人がパフェを持ってきてくれた。うわ〜すごく美味しそうだ。

「いただきます」

パフェの上にはバニラ味のアイスクリームが乗っかっており、チョコレートがかけられている。下にいくとムースやクリーム、コーンフレークがあり食感が楽しめるようになっている。やっぱりスイーツは美味しいな。幸せな気持ちになる。お母さんとお姉ちゃんはパンケーキを頼んでいた。私も少し分けてもらったがとてもフワフワで美味しかった。しばらくカフェで休憩し、私たちは家に帰った。

「ただいま」

私は帰ってきてすぐにお風呂に入った。今日は疲れてしまったので自分の部屋に行き、もう寝ることにした。夜ご飯は食べていないが大丈夫だろう。そして朝になった。窓からは朝の日差しが入ってきている。眩しい。私は制服に着替えてリビングに行き、朝ごはんを食べた。昨日夜ご飯を食べていなかったのでいつもよりもお腹が空いていた。トーストされた食パンに目玉焼きを乗っけてマヨネーズをかける。実に最高の組み合わせだ。目玉焼きでお腹が膨らむ。時計を見るとそろそろ学校に行く時間だったので、急いで家を出た。

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

学校に着いて私はいつものように本を読んでいた。来週には中間テストがやってくる。私は本を閉じて勉強にとりかかった。でも集中力が切れてきたので、窓の外に目をやった。今日はすごく晴れているな。あ、先生が教室にはいってきた。

「皆さんおはようございます。来週はテストがあるのでちゃんと勉強してくださいね」

クラスの皆は来週がテストとだという事を聞いてテンションが下がった。私もテストが嫌いなので落ち込んでしまう。テストが好きな人なんているのだろうか。中学生になってから初めてのテストだ。学校が終わり、私はすぐに家に帰った。自分の部屋に行き、テスト勉強にとりかかる。さすがに低い点数をとってはダメだと思い、必死に分からない問題を解いていった。分からない箇所はお姉ちゃんに教えてもらったりした。お姉ちゃんは私と違って頭が良く、偏差値の高い高校に通っていてすごく頼りになる。

そしてテスト当日になった。私はこの1週間本気で勉強を頑張ってきた。今まで以上にやってきた。あとは発揮するだけだ。学校に着いて私は1人で問題を解く。周りのみんなは友達と問題を出し合ったりしていた。少し羨ましいと思ったが、私にはそんなに話せる友達がいないので仕方がない。担当の先生が教室に入ってきた。問題用紙と解答用紙を渡され、チャイムと同時にテストが開始される。

「キーンコーンカーンコーン」

よし、始まった。名前と出席番号を書いて問題を解いていく、数学のテストなので計算ミスがないように解いていく。最初はすらすらと解けていた。だが最後らへんの問題が応用だったので難しかった。諦めずにどんどん解いていく。そして終了のチャイムがなった。いっせいに鉛筆の音が止まった。後ろの席から回収していき先生に渡す。そして先生が全部確認して休み時間になった。周りの子たちは満足そうな顔をしていた。一方であまり出来なかったという声も聞こえてくる。私はまあまあ出来たなと思った。

次のテストに備えて勉強に戻る。そして最後のテストになった。最後のテストは社会だった。私は覚えることが特に苦手なので一生懸命勉強してきた。だけど勉強した範囲があまり出てこなかった。しまった、最悪だ全然解けない。担当の先生がこちらに歩いてくる。私の解答欄は空白ばかりだったので先生に見られてすごく恥ずかしかった。そしてチャイムが鳴り、やっと全てのテストが終わった。

私は急いで家に帰り、新作のゲームをしばらくプレイしていた。

「紗菜ー、夜ご飯できたわよ」

どうやら夜ご飯ができたみたいだ。私はリビングに向かった。そしてお姉ちゃんも部屋から出てきた。今日の夜ご飯は肉じゃがだった。ゴロゴロのじゃがいもと人参と玉ねぎとしらたきとお肉が入っている。味がしみていてとても美味しい。お姉ちゃんは何かニヤニヤしていた。お母さんもお姉ちゃんの異変に気づいた。

「ねえ(さき)、あんたさっきからニヤニヤしてどうしたの?」

「え!? な、なんでもないよ」

いかにも何かあるそぶりだった。お姉ちゃんは分かりやすいなー。

「お姉ちゃん絶対なんかあったじゃん!」

「咲〜隠しても無駄よー?」

お母さんも気になるようだ。するとお姉ちゃんはやっと口を開いた。

「実は私、彼氏出来た」

「えー? お姉ちゃん彼氏出来たの?」

「咲が彼氏ねぇ、どんな人なのよ〜」

お姉ちゃんが彼氏だなんて、すごくびっくりした。確かにお姉ちゃんは普通よりは可愛い方だし、頭もいいし運動もまあまあできるのでモテてもおかしくはない。私は今まで人を好きになったことがなかった。好きという感情が分からない。お姉ちゃんがまた口を開く。

「サッカー部で、すごくかっこいいんだよ」

お母さんがキャーキャーと喜んでいる。お母さんはどんどんテンションが上がっている。私は話が追いつかなくなるのでそろそろ自分の部屋に行った。彼氏か、私には縁のない話。私は再びゲームにとりかかった。

次の日になりテストが返ってきた。私は目をうたがってしまった。思っていたよりもだいぶ点数が低かった。私は一瞬頭が真っ白になった。あんなに頑張ったのに平均点よりも低かった。嘘でしょ、私が頑張ってきたことは無駄だった。やっぱり私は出来損ないの人間なんだ。すると隣の席の佐野が話しかけてきた。

「山本何点だったー?」

佐野は軽々しく聞いてきたので腹が立つ。しかも私の後ろの席の子は75点でも低かったと言っている。なんだか切なくなった。

「まあまあだったよ」

「へー、良かったじゃん」

私は佐野に嘘をついてしまった。だけどさすがに平均点より低かっただなんて口が裂けても言えない。だから嘘をつくしかなかった。ある休み時間のことだった。私はいつも通り本を読んでいた。そこに佐野がきて私に喋りかけてきた。今日は佐野とよく喋る。

「山本っていつもぼっちだよな」

「ぼっちじゃないし」

え、ぼっち?確かに傍から見るとぼっちに見えるかもしれないが、私はそんな事気にしたことがなかった。でもこの日から少しずつ気にするようになった。人間関係など中学生になってからあまり深めようと思っていなかったが、二学期になり少しずつ友達と話していき休み時間も友達と過ごすようになってきた。