幼稚園、小学校、中学校、高校、大学、専門学校、あるいは就職、私たちにはこのように過程がある。その過程が終わっていくたび、私は戻りたいと思ってしまう。小学生になるとなんでもわがままを聞いてもらえる幼稚園の頃に戻りたいとか、中学生になった時、勉強をあまりしなくても良かった小学生に戻りたいとか、とにかく過去にとらわれてしまう。
私の名前は山本 紗菜、先月中学生になったばかりだ。小学生の頃、中学生を見た時、キラキラしていて大人っぽくて憧れていた。だけどいざ中学生になると思ったよりも普通だった。ただ勉強が難しくなったり、校則が厳しくなったり、嫌な事だけが増えていった。それに私は嫌いな先生ができてしまった。その先生は数学の先生で、皆からも嫌われていた。厳しくて、すぐに怒ってくる。本当に苦手だ。その先生のせいで学校を休みたくなった日だってあった。だけど休んでしまうと勉強に追いつかなくなってしまい、結局自分にかえってくる。ただでさえ勉強が出来ないのにもっと追いつかなくなってしまう。だから私は頑張って学校に行く事にした。
「おはよー紗菜ちゃん!」
この明るい声は村上 美桜だ。柔らかい茶髪の髪で、目がクリクリしていて、スタイルも良くて可愛くて女子や男子からも人気が高い。私には美桜ちゃんが光って見えた。こんな私に挨拶してくれるなんて優しいな。
「あ、美桜ちゃん! おはよう」
私は挨拶をするといつものように本を読む。全体的に女子とは話せるが、一緒に行動したりする事はあまりない。喋りかけられたら話す程度のものだ。たまに私から話しかける時もある。休み時間や移動教室に行く時だっていつも1人で行動している。孤独だなとか寂しいとかぼっちだなんて思った事がなかった。でも周りの子は私を見てどう思ってるのだろうか。あの子ぼっちじゃんとか思われているのだろうか。まあどうでもいいか。
入学してからクラスにもだいぶ慣れ始め、落ち着いてきた。1限目の授業は数学だった。嫌だな、もし先生の機嫌が悪かったら、その授業の雰囲気はもう最悪だ。
「ガラガラガラ」
先生が教室に入ってきた。先生の様子を伺いながら教科書を机から取り出す。どうやら今日は大丈夫そうだ。しばらく授業を受けていた。そして練習問題を解く時間になり、先生が生徒を当てて、答え合わせをする。どうか私を当てないでください。私は心の中でそう呟き、神様にもお願いした。だけど今日はついてないみたいだ。最後の最後に当てられてしまった。
「はい、山本さんここの答えは?」
「えーと」
私は丁度この問題だけ解けなかった。私は申し訳ないように先生に目を合わせた。先生は少し呆れていた。
「じゃあ山本さんこの問題は?」
最悪だ、違う問題を出してくるとは思ってもいなかった。しかも全然答えが分からない。私は今やっている単元が特に苦手なのだ。
「すみません、分かりません」
「問題が解けるまで立ってなさい」
もう本当に最悪だ。私はこれまで先生に怒られずに生きてきたので、怒られてしまい少し涙が出そうになった。周りの皆も私を見て気まずそうにしている。私は皆から頭が良さそうだねと言われてきたので、複雑な気持ちになった。だいたい人を見た目で判断するなって感じ。まあ仕方がないか、私は地味であまり話さないし、いつも本とか読んでるしね。真面目な子だなと思われて当然だ。この先生は分からない問題があれば分かるまで立たされる形式だった。どうしよう........。すると隣の席の佐野 朝陽が小さく私に答えを教えてくれた。
「そこは9X+4だよ」
「え? ありがと」
「山本さん早く答えてください」
「えっと9X+4です」
「はい、合ってます。座ってください」
あー、やっと座れた。私は佐野にもう1度お礼を言った。佐野は明るくて優しいけど少し先生に怒られてたり......。だけど本当に助かった。そしてチャイムが鳴り、授業が終わった。すると佐野がニヤニヤして喋りかけてきた。
「山本って意外に頭悪いんだなっ」
「うん、私実は頭悪いんだよね〜」
「なんか安心したわ」
なんで安心?やっぱり頭いいって思われてたんだね。皆に私が頭悪い事ばれちゃったよ。私ってなんの取り柄もないな。絵も上手くないし歌も運動も勉強も全然出来ない。もう最悪なんですけど。隣の席とはいえども、佐野と話す機会はあまりなかったので、なんだか嬉しかった。
「山本って何部だっけ」
「私は部活入ってないよ」
「そうなんだー」
「佐野は確かテニス部?」
「うん。そうだよ」
凄いなー、運動部なんて私には絶対に無理。走ることもあまり好きじゃないし、先輩とか上下関係とか怖そうだし。怒られたくないし。帰りが遅くなって自分の時間が削れる事も嫌だ。私も最初は文化部に入ろうと思ったが、いまいちだったので結局部活に入らなかった。
あっという間に他の授業も終わった。早く帰ろうと思い鞄を取った。そして階段を下りて校門を通り、しばらく歩いていた。やっぱり小学生の頃に戻りたいな。校則も緩くて遊び放題だったのですごく楽しかった。友達と公園で遊んだり、夜遅くまでゲームをしたり楽しかったな。中学生になって中間テストや期末テストがあり点数が悪いと成績にひびいてしまうのでテスト前は勉強に専念しなければならない。そんなことを考えていたらあっという間に家に着いた。
「ただいま〜」
「おかえり〜!」
お母さんが出迎えてくれる。
「学校はどうだった?」
「普通だよ」
私は廊下を歩いて自分の部屋に行く。鞄を置いて本を読み始めた。今読んでいる本は主人公が転生してその国の王になるという話だ。最近は転生系が多く、読者の私も惹き込まれてしまう。しばらくするとお母さんの声が聞こえてきた。
「紗菜〜夜ご飯できたわよ」
「はーい」
今日の夜ご飯はなんだろう。そう考えながらリビングに向かう。どうやら今日はカレーのようだ。テーブルに座り、お母さんとお姉ちゃんと一緒になにげない会話をしながら食べる。お父さんは、私の小さい頃に離婚してしまい顔も知らない。皆が食べ終わり、私も食べ終わった。お姉ちゃんは私たちの食器を洗いに行った。お母さんはリビングの掃除をしている。私は自分の部屋に戻った。私は家事など自分からすすんでやろうとは思わない。だって誰かがやってくれるし、めんどくさいからだ。
私は自分の机に座り、宿題にとりかかる。ワークを鞄から取り出して鉛筆を持ち、手を動かす。皆はこのワークを淡々とこなせるのかな。私なんて1時間はかかってしまう。よし、やっと最後の問題が解けた。私は明日の授業の用意をして、お風呂に入りに行った。私には楽しみがあり、気分によってお風呂にバスボールを入れるというものだ。今日はスッキリしたいので柑橘系の香りの物を選んだ。ふー、凄く疲れが取れる。香りが鼻を通り、全身を満たしていく。そろそろのぼせてしまうのでお風呂から上がった。髪をドライアーで乾かし、リビングで水を飲みに行った。するとお母さんが私に話しかけきた。
「ねえ紗菜、今週の日曜日空いてる?」
「空いてるよ」
「良かった、じゃあ家族でショッピングモール行かない?」
「え、うん分かった」
私は正直ショッピングモールがあまり好きではない。だってお母さんやお姉ちゃんの服選びや化粧品選びなど長い時間待たされるし、私は服や化粧には興味がないのでつまらないからだ。断ろうと思ったが、こういう時は必ずカフェに寄るので行かなければ美味しいスイーツが食べれない。だから行くことにした。お母さんはウキウキしながらお風呂に入りに行った。私は部屋に戻り、本の続きを読んでいた。そろそろ眠くなってきたので部屋の明かりを消し、ベッドに入って目を閉じた。
日曜日になり、お母さんと私とお姉ちゃんでショッピングモールに行った。人はそれほど混んでいなかった。さっそく私たちは服のお店に入っていった。お母さんとお姉ちゃんは楽しそうに服を見ている。私はどこが楽しいのかさっぱり分からなかった。お姉ちゃんが私に話しかけてきた。
「紗菜〜これとあれどっちの服が似合うと思う〜?」
あー、始まった。こういうことを聞いときながら本当はもう自分の中では決まってるというよくある展開だ。私は適当に言う事にした。
「そっちかな」
「えー、そうかな? 迷う〜」
やはり結局こうなる。次はお母さんに呼ばれた。
「紗菜、あなたもなにか選んでちょうだい」
「はーい」
私が手に取ったのは黒のワンピースだ。私はいつも目立たないように、モノトーンの色の服をよく着ている。なのでお母さんやお姉ちゃんからいつも地味だと言われてしまう。だいたい2人は派手すぎるのだ。どうしてそんな服を着れるのだろうか。私には絶対に似合わないし、着ようとも思わない。
しばらく色々なお店を見てカフェに行く事になった。やはり予想は的中した。すごく楽しみだ。早く着かないかな。しばらく歩いているとカフェらしき建物が見えてきた。
カフェに入ると花など植物が飾ってあり、とてもオシャレだった。何を注文しようかな、迷ったが私はパフェを頼んだ。しばらくするとお店の人がパフェを持ってきてくれた。うわ〜すごく美味しそうだ。
「いただきます」
パフェの上にはバニラ味のアイスクリームが乗っかっており、チョコレートがかけられている。下にいくとムースやクリーム、コーンフレークがあり食感が楽しめるようになっている。やっぱりスイーツは美味しいな。幸せな気持ちになる。お母さんとお姉ちゃんはパンケーキを頼んでいた。私も少し分けてもらったがとてもフワフワで美味しかった。しばらくカフェで休憩し、私たちは家に帰った。
「ただいま」
私は帰ってきてすぐにお風呂に入った。今日は疲れてしまったので自分の部屋に行き、もう寝ることにした。夜ご飯は食べていないが大丈夫だろう。そして朝になった。窓からは朝の日差しが入ってきている。眩しい。私は制服に着替えてリビングに行き、朝ごはんを食べた。昨日夜ご飯を食べていなかったのでいつもよりもお腹が空いていた。トーストされた食パンに目玉焼きを乗っけてマヨネーズをかける。実に最高の組み合わせだ。目玉焼きでお腹が膨らむ。時計を見るとそろそろ学校に行く時間だったので、急いで家を出た。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
学校に着いて私はいつものように本を読んでいた。来週には中間テストがやってくる。私は本を閉じて勉強にとりかかった。でも集中力が切れてきたので、窓の外に目をやった。今日はすごく晴れているな。あ、先生が教室にはいってきた。
「皆さんおはようございます。来週はテストがあるのでちゃんと勉強してくださいね」
クラスの皆は来週がテストとだという事を聞いてテンションが下がった。私もテストが嫌いなので落ち込んでしまう。テストが好きな人なんているのだろうか。中学生になってから初めてのテストだ。学校が終わり、私はすぐに家に帰った。自分の部屋に行き、テスト勉強にとりかかる。さすがに低い点数をとってはダメだと思い、必死に分からない問題を解いていった。分からない箇所はお姉ちゃんに教えてもらったりした。お姉ちゃんは私と違って頭が良く、偏差値の高い高校に通っていてすごく頼りになる。
そしてテスト当日になった。私はこの1週間本気で勉強を頑張ってきた。今まで以上にやってきた。あとは発揮するだけだ。学校に着いて私は1人で問題を解く。周りのみんなは友達と問題を出し合ったりしていた。少し羨ましいと思ったが、私にはそんなに話せる友達がいないので仕方がない。担当の先生が教室に入ってきた。問題用紙と解答用紙を渡され、チャイムと同時にテストが開始される。
「キーンコーンカーンコーン」
よし、始まった。名前と出席番号を書いて問題を解いていく、数学のテストなので計算ミスがないように解いていく。最初はすらすらと解けていた。だが最後らへんの問題が応用だったので難しかった。諦めずにどんどん解いていく。そして終了のチャイムがなった。いっせいに鉛筆の音が止まった。後ろの席から回収していき先生に渡す。そして先生が全部確認して休み時間になった。周りの子たちは満足そうな顔をしていた。一方であまり出来なかったという声も聞こえてくる。私はまあまあ出来たなと思った。
次のテストに備えて勉強に戻る。そして最後のテストになった。最後のテストは社会だった。私は覚えることが特に苦手なので一生懸命勉強してきた。だけど勉強した範囲があまり出てこなかった。しまった、最悪だ全然解けない。担当の先生がこちらに歩いてくる。私の解答欄は空白ばかりだったので先生に見られてすごく恥ずかしかった。そしてチャイムが鳴り、やっと全てのテストが終わった。
私は急いで家に帰り、新作のゲームをしばらくプレイしていた。
「紗菜ー、夜ご飯できたわよ」
どうやら夜ご飯ができたみたいだ。私はリビングに向かった。そしてお姉ちゃんも部屋から出てきた。今日の夜ご飯は肉じゃがだった。ゴロゴロのじゃがいもと人参と玉ねぎとしらたきとお肉が入っている。味がしみていてとても美味しい。お姉ちゃんは何かニヤニヤしていた。お母さんもお姉ちゃんの異変に気づいた。
「ねえ咲、あんたさっきからニヤニヤしてどうしたの?」
「え!? な、なんでもないよ」
いかにも何かあるそぶりだった。お姉ちゃんは分かりやすいなー。
「お姉ちゃん絶対なんかあったじゃん!」
「咲〜隠しても無駄よー?」
お母さんも気になるようだ。するとお姉ちゃんはやっと口を開いた。
「実は私、彼氏出来た」
「えー? お姉ちゃん彼氏出来たの?」
「咲が彼氏ねぇ、どんな人なのよ〜」
お姉ちゃんが彼氏だなんて、すごくびっくりした。確かにお姉ちゃんは普通よりは可愛い方だし、頭もいいし運動もまあまあできるのでモテてもおかしくはない。私は今まで人を好きになったことがなかった。好きという感情が分からない。お姉ちゃんがまた口を開く。
「サッカー部で、すごくかっこいいんだよ」
お母さんがキャーキャーと喜んでいる。お母さんはどんどんテンションが上がっている。私は話が追いつかなくなるのでそろそろ自分の部屋に行った。彼氏か、私には縁のない話。私は再びゲームにとりかかった。
次の日になりテストが返ってきた。私は目をうたがってしまった。思っていたよりもだいぶ点数が低かった。私は一瞬頭が真っ白になった。あんなに頑張ったのに平均点よりも低かった。嘘でしょ、私が頑張ってきたことは無駄だった。やっぱり私は出来損ないの人間なんだ。すると隣の席の佐野が話しかけてきた。
「山本何点だったー?」
佐野は軽々しく聞いてきたので腹が立つ。しかも私の後ろの席の子は75点でも低かったと言っている。なんだか切なくなった。
「まあまあだったよ」
「へー、良かったじゃん」
私は佐野に嘘をついてしまった。だけどさすがに平均点より低かっただなんて口が裂けても言えない。だから嘘をつくしかなかった。ある休み時間のことだった。私はいつも通り本を読んでいた。そこに佐野がきて私に喋りかけてきた。今日は佐野とよく喋る。
「山本っていつもぼっちだよな」
「ぼっちじゃないし」
え、ぼっち?確かに傍から見るとぼっちに見えるかもしれないが、私はそんな事気にしたことがなかった。でもこの日から少しずつ気にするようになった。人間関係など中学生になってからあまり深めようと思っていなかったが、二学期になり少しずつ友達と話していき休み時間も友達と過ごすようになってきた。
中学1年生が終わり、2年生になった。佐野と美桜ちゃんとまた一緒のクラスになった。私は美桜ちゃんといつしか仲良くなり、このクラスになってから新しく大森 結愛とも仲良くなり、いつも3人で行動するようになった。前までは人間関係とか避けてきたけど、やってみれば以外に出来るものだと思った。今はクラスの女子と普通に話せるようにまでなった。
「あの、山本さん鉛筆落としましたよ」
「上田ありがとう!」
彼は私の隣の席の上田 颯真だ。少しミステリアスでいつも何を考えているんだろうと気になってしまう。物静かだけど友達も多い。不思議な子だ。気づいたら目で追ってしまっている。上田と話すたび心臓がドクドク動く。なんだろうこの感覚......。
「紗菜〜早く行こ!」
「紗菜ちゃん急がなくてもいいよ〜」
次の授業は移動教室なので美桜と結愛ちゃんが私を呼んでいた。
「うん行こ!」
教室に着くまでなにげない会話が続いた。そして話題はいつしか恋バナになった。美桜は恋愛が好きなのだ。
「紗菜と結愛は好きな人いないの?」
結愛ちゃんが口を開いた。
「私は違うクラスにいるかな」
結愛ちゃんの好きな人か、どんな人だろう。すると美桜が私の方を見てきた。
「紗菜はいないの?」
「え、私?」
「上田とはどうなの? いい感じじゃなーい?」
「そんなんじゃないし」
好きとか分かんないし、上田は不思議な子だから気にしてしまうだけ。
「美桜はいないの?」
「私は佐野かな、運動神経いいし、かっこいいし」
「美桜って佐野の事好きなんだ」
「美桜ちゃんと佐野お似合いだよ」
私は少し驚いた。でもすごくお似合いだ。美男美女って感じ。そして教室に着いた。チャイムが鳴り私は板書をしていた。するとふと上田と目が合った。私は心臓がドクドク鳴った。気のせいだと思ったけど、止まらなかった。もしかしてこれが恋なのか?これが好きという感情なのか。顔が熱くなった。今日の授業が全て終わり、私は家に帰った。
自分の部屋に行き、本を読み始めた。だけど全然集中できない。上田がどうしても頭に出てくる。私は居ても立っても居られなくなり、明日告白することにした。やっぱり気持ちは伝えないとモヤモヤしてしまう。そして翌日になった。教室に上田が入ってきた。
「上田、ちょっといい?」
教室にはまだ誰もいなかったので誘いやすかった。
「どうしたの山本さん」
「あの、私上田の事が好きです。付き合ってください」
「え、ご、ごめんなさい」
振られてしまった。失恋ってこういう気持ちなんだ。悲しい、私は涙をこらえた。そして私たちは教室に入った。上田は私の隣の席なので余計に気まずかった。しばらくすると美桜と結愛ちゃんが教室に入ってきた。
「おはよー紗菜」
「おはよう。紗菜ちゃん!」
「おはよー美桜と結愛ちゃん」
するといきなり教室のドアが勢いよく開いた。佐野が教室に入ってきて私の元に向かってきた。え、何?そして佐野は私の腕を掴み、私は階段の方へ連れて行かれた。佐野を見ると耳がかすかに赤くなっていた。
「なあ、俺山本の事が好きだ。付き合ってくれ」
え、今告白された?あの佐野が私なんかを?嘘コクか何かかな。だが佐野を見るとどうやら本気みたいだ。どうしよう、私にはもったいなさすぎるよね、だけどせっかく気持ちを伝えてくれたので私は告白を受け止める事にした。
「こんな私で良ければよろしくね」
「よっしゃーありがとうよろしくな」
これ夢じゃないよね、ほっぺをつねったが現実だった。そろそろチャイムが鳴るので私と佐野は教室に戻った。美桜の様子がどこか冷たかった。気のせいかな。
私は休み時間に美桜に喋りかけにいこうとした。すると美桜は結愛と一緒に教室を出てしまった。あ、用事でもあったのかな......。私も行きたかった。佐野が私の方に来て喋りかけてきた。
「山本さ、今週の土曜日空いてる? もし良かったら遊びに行かない?」
「え!? 行きたい!」
「じゃあ9時ぐらいにショッピングモール集合で」
「分かった!」
ショッピングモールはあまり好きではないがこの際いいだろう。あー、もっと可愛くなりたいな。当日は可愛い服も着たい。オシャレや美容には興味がなかったけど、なんだか今回は頑張りたくなった。学校が終わり私は家に帰った。自分の部屋に行き、クローゼットを見た。うーん、今までオシャレには興味がなかったため今の流行りなど全然分からない。服はお姉ちゃんの物を借りようと思った。次に顔や体型だ。少しでも可愛くなるためにお菓子を控えたり、顔のマッサージをする事にした。
そして土曜日になり、私はショッピングモールの入り口で佐野を待っていた。なんだか緊張するな。髪型変じゃないよね、服派手すぎない?大丈夫だよね。いつもならモノトーンの色の服を来ているが、今日は勇気を出して黄色のワンピースに挑戦し。髪も高めに結んだ。少しすると佐野が来た。
「ごめん、お待たせ」
「ううん、大丈夫!」
「山本のこと下の名前で呼んでもいい?」
「うん! いいよ」
「じゃあ俺のことも下の名前でよろしくな」
「分かった!」
そして私たちはショッピングモールの中に入った。佐野と付き合う事になるなんて思ってもいなかった。佐野の下の名前って確か朝陽だったよね。朝陽の私服は意外にもオシャレだったので、改めて私の服が変じゃないか確認する。すると朝陽はアクセサリーのお店に入って行ったので私も着いていく。
「これ紗菜にすげえ似合う」
朝陽が手元に持ったのは、お花の形のネックレスだった。こんなに可愛くて綺麗な物私なんかには似合わないよ、でも首元にネックレスを当てて鏡を見た。すると少しだけ似合うんじゃないかと思った。朝陽が似合うって言ってくれたから?
「本当?」
「うん、俺買ってくるよ」
「え、いいよ私が買うから」
「俺が買う!」
払わせるなんて申し訳ないよ、だけどせっかく買ってくれると言ってくれたのでお言葉に甘える事にした。私はお店の外で待っていることにした。そしてお会計を終えた朝陽が戻ってきてネックレスを着けてくれた。すごく距離が近かったので顔が熱くなった。
「ありがとう」
「やっぱり似合ってるよ」
アクセサリーを着けたのはこれが初めてだ。お母さんやお姉ちゃんはイヤリングや指輪など着けていたが、私はめんどくさいので今まで着けてこなかった。だけどこれはめんどくさいなんて思わない。すごく可愛くて一生着けていたいと思った。そして私たちはお腹が空いたので、ファミリーレストランに入った。それからたわいな話をした。そういえば朝陽はどうして私みたいな人を好きになったをんだろう。
「朝陽ってどうして私を好きになったの?」
朝陽は耳を赤らめた。本当に私の事が好きなんだなと思った。
「俺紗菜の笑った顔を初めて見た時、一気に好きになったんだ。可愛いし」
「え!? 私全然可愛くないよ?」
「いや、紗菜は可愛いよ。 もっと自信を持ってもいいと思う」
私が、可愛い?自信を持て?本心で言っているのかな、だけど少しだけ心が軽くなった気がした。このネックレスにもっと似合うようになりたいな。私たちはご飯を食べ終えてお店を出た。そしてそろそろ帰ることになった。
「じゃあまたなっ」
「うん! ありがとう」
「おう!」
今日は本当に楽しかった。このネックレスすごく可愛いな。朝陽は私にすごく自信をくれる。朝陽といるとなんだか可愛くなれる気がした。私もっと自分を磨いていこう。家に着いて自分の部屋に行き、大切にネックレスを机にしまった。自然に顔がにやけてしまう。お姉ちゃんはこんな気持ちだったんだ。私は夜ご飯を食べ、お風呂に入り、早く寝た。
月曜日になり私は朝食を食べ終えて玄関のドアを開けた。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
教室に着き私は1限目の用意をして、友達の所に行きしばらく話していた。すると美桜と結愛ちゃんが教室に入ってきた。
「おはよ美桜! 結愛ちゃん」
「........」
「おはよう紗菜ちゃん」
え、今美桜に無視された?私なんか怒らせるようなことした?とりあえず美桜の所に駆け寄った。なんだか美桜は雰囲気がいつも違った。
「美桜?私なんか怒らせるようなことしちゃった?」
「........」
どうして?すると美桜は口を開いた。
「酷いよ紗菜」
私やっぱり何かしちゃったのかな。だけど覚えがない。再び美桜は口を開いた。
「私、佐野の事好きって言ってたのにどうして取ったの?」
「大体、紗菜みたいな地味な子じゃ佐野とは釣り合わないよ?」
え、優しかった美桜はもうここにいなかった。美桜はこの前の恋バナでそんな事を言っていたのを思い出した。だけど佐野は誰のものでもないし、取っただなんて........。しかも美桜の本心を知ってしまった。やっぱり私は地味な子なんだ。美桜だけじゃない、皆も私と佐野じゃ釣り合わないって思っているに違いない。美桜の立場を考えたら確かに苛つくのも分かる。私は涙が溢れてきた。クラスの皆は私と美桜を見ている。もうここに居たくない。私は走って教室のドアを開けた。すると丁度朝陽と対面してしまった。最悪だ、泣いてる顔なんて見せたくない。私はそのままトイレに逃げようと思った。だけど朝陽に止められてしまった。どうやら朝陽はさっきの会話を聞いていたらしい。朝陽は私を連れて美桜の所に行った。
「村上、紗菜に謝ってくれないかな」
「え? なんで佐野が入ってくるわけ?」
「いいから謝ってほしい」
「........ごめん紗菜」
「俺の彼女を気づ付けないでくれるかな」
美桜の表情はすごく暗かった。当然だろう。好きな人にきつい事を言われてしまいショックを受けたに違いない。謝ってはくれたものの私ももう少し人の気持ちを理解した方がいいと思った。だけど美桜にあんな事を言われるなんて、これからどう接せればいいの?そしてチャイムが鳴った。今日は美桜に近づくのはやめておこう。私は一緒の班の子と過ごすことにした。全ての授業が終わり私は鞄を持って教室を出た。すると朝陽が走ってきた。そして一緒に帰ることになった。帰り道が一緒だったので嬉しかった。空を見ると夕焼けの空が私たちを照らしていた。
「紗菜今日は散々だったな」
「う、うん朝陽ありがとね」
「彼氏として当然のことだよ」
朝陽は勇気があってすごいな。私ももっと素敵な人間になれたらいいのに。
「私、もっと朝陽にふさわしい彼女になれるように頑張るね」
「ううん、紗菜は今のままで良いよ。今のままでいて欲しい」
その言葉を聞いて救われた気がした。涙が出そうになった。朝陽は優しいな、こんな私を認めてくれるなんて。
「朝陽......ありがとう」
そして朝陽と道を別れ、歩いていた。すると後ろから私を呼ぶ声がした。どうやらその声は美桜だった。また何か言われちゃうの?美桜が口を開いた。
「紗菜......ごめん、私紗菜に嫉妬してて自分の感情を止められなかった。本当に私酷い女よね、ごめんなさい」
「私こそ、ごめんね」
「紗菜は謝らなくていい、私これからは2人を応援することに決めた」
「え、応援? ありがとう美桜」
美桜はそう言って走って行ってしまった。恋愛って人を変えちゃうんだ、良くも悪くも。美桜は応援するって言ってくれたけど、心の底ではきっと納得してないよね。だけど私は美桜の分も朝陽と幸せになりたい。ずっとずっと朝陽と一緒にいたい。こんな私を好きになってくれてすごく嬉しい。つい最近までは過去に囚われてしまっていたのに、いつしか今を見るようになってきた。朝陽と出会ってから毎日が楽しかった。過去の思い出も大切だけど、今は今しかないから、その一瞬一瞬を大切にしていきたいと思った。
そして私たちは中学校、高校を卒業し、大学生になった。朝陽とは高校も一緒だったが、大学では別々になった。今日は久しぶりに朝陽と会う約束をしていた。せっかくなので、私は朝陽に初めて貰ったお花の形のネックレスを着けてきた。今まで沢山のアクセサリーなどプレゼントしてくれたけど、やっぱりこのネックレスが1番気に入っているし、思い出の品だ。待ち合わせ場所は近くの公園だった。秋になり辺りの木々は紅葉していた。色が綺麗で、思わず見とれてしまう。気温も涼しくなって動きやすくなった。私が公園に着いてからしばらくしてから朝陽がきた。
「紗菜久しぶり、待たせてごめんな」
「ううん、大丈夫だよ。 久しぶり!」
私たちはしばらく公園を散歩していた。公園には、ランニングをしている人や家族連れの人、カップルなど沢山の人達がいた。私たちは疲れたので噴水の近くのベンチで休憩していた。するといきなり朝陽が立ち出した。私はびっくりして肩が上がりそうになった。そして朝陽が口を開いた。
「なあ沙菜、これからもずっと紗菜といたい。俺と結婚してくれないか?」
え、結婚!? 朝陽は綺麗な指輪を私に差し出してくれた。涙が込み上げてきた。これからも一生朝陽と一緒にいたい。私を選んでくれてありがとう。
「うん。もちろん! よろしくお願いします」
こうして私たちは1年後式を挙げ、子供が生まれていつしか2児のお母さんとお父さんになった。どちらも女の子で歳は2歳と7歳だ。上の子は今年から小学生になり毎日楽しそうに学校に通っている。時々下の子の面倒を見てくれるのでとても助かる。今まで辛いこともあったけれど朝陽がいるから乗り越えられた。毎日仕事で疲れてるのに家事や育児など手伝ってくれてありがとう。これからもよろしくね。我が子もすくすくと健康に育ちますように。
俺は今日プロポーズをする。少し前から鼓動が鳴りやまない。しかも手が震えてきた。俺と彼女は中学生からの付き合いで、高校も一緒だった。初めて彼女を見た時は大人しくていつも1人で本を読んでいたので地味な印象だった。だけど席替えで隣の席になった時、話す機会が少しだけ増えた。彼女は俺の話を聞いて笑顔で笑ってくれた。その笑顔が可愛くて惚れてしまった。よく顔を見ると鼻筋が通っていて綺麗な顔立ちだった。俺は勇気を出して中学2年生の時告白した。そしたら受け入れてくれた。正直断られてしまうんじゃないかと思っていたので、すごく嬉しかった。俺は中学生ながらにも彼女を一生幸せにさせたいと思った。そして今日、彼女にプロポーズをしようと予定している。
秋風に当たりながら待ち合わせに急ぐ、歩いていると迷子らしい小さな男の子が泣いていた。俺はその子の所に駆け寄って事情を聞いていた。すると男の子の家族が探しにきた。男の子は俺にお礼を言って家族の元へ行ってしまった。家族が見つかって良かった。誘拐でもされたら大変だ。時計を見ると待ち合わせ時間を過ぎてしまっていたので俺は急いで待ち合わせ場所に行った。
彼女と会うのは久しぶりだったので、なんだか不安だった。だけど彼女を見た瞬間それが安心に変わった。彼女の首元を見ると初めてのデートでプレゼントした花の形のネックレスを着けてくれていた。いつになっても似合っている。会ってすぐにプロポーズをするのはさすがに急すぎるので少し公園を散歩をする事にした。辺りを見ると紅葉したもみじが並んでいてすごく綺麗だった。
しばらく歩き、疲れてしまったのでベンチで休憩していた。ぼちぼち落ちついてきたのでプロポーズをするのは今だと思った。俺は立ち上がりポケットに入れていた指輪を差し出した。彼女はすごく驚いていた。そして嬉しそうに笑っていた。これは成功だなと思った。結果は成功だ。俺を選んでくれてありがとう。
そして1年後式を挙げ、子供が生まれた。今は2歳と7歳になり、元気が良くてとても可愛い。上の子は最近小学生になったばかりだ。入学式の時は思わず泣いてしまった。俺はそこまで涙脆くなかったが、子供が生まれてからはなぜか涙脆くなってしまい我が子が成長した姿を見ると時々涙が出てくる。妻は毎日家事や育児で疲れてしまうので、仕事から帰ると俺も手伝うように心がけている。俺はこれから家族と沢山の思い出を作り、助け合って幸せに暮らしていこうと思う。