周りを取り囲んでいた男達は一斉に飛びかかってきた、だが数メートルの所で彼等の動きはピタリと止まりその場にひれ伏すように倒れた、彼等の身につけている金属はお互いに反応し合い近くにいた者達を引き寄せるかのようにくっついていく。

「話し合いだっていうから来たのに。おい、そっちは任せた。派手にやってこいよ」

 ニット帽をかぶった少年が笑いながら左手掌底を星が広がる大空に向けて伸ばしている、その手からは何かグニャグニャとした物が辺り一面を覆うかのように放たれていた。
 黒い帽子をかぶった少年は腰に付けていたもう一本の剣を左手に構えてどんどんと大男に近づいていく。少年は右に装備している曲剣を『グルブエレス』。左手に装備するグルブエレスより長くて細い剣を『ツインシグナル』と呼んでいた。
 黒い帽子は左目の上のところが少し斜めに切れ目が入っていてつばは全体に大きく広がっている、エルメアを腰の所でベルトで縛りその下はローブのように靡くようになっている。
 全体的に黒い衣装で身を固め髪の毛までも黒と何か嫌な感じがするこの少年、長い髪を靡かせながら大男の目の前まで来て、

「どうする? このまま俺の剣が大将の身体をひき肉にするか大将が逃げるか、俺はどっちでも良いよ、出来れば逃げてくれると速く事が進んで有り難いんだけどな」

 意地悪そうに笑顔を作り両手に持っている剣を逆手に持ち替える、月の光でむき出しになった刃は不気味な輝きを放ち同時に少年の顔を照らす。

「ふざけるなぁ!」

 大男は勢いよく脇に有った剣を取り出すと力任せに横に一閃をたたき込む、だがその剣はしっかりと少年が構えているグルブエレスに受け止められていた。

「これが大将の答えか、しょうがないな」

 グルブエレスで大男の剣をなぎ払うとツインシグナルが横一杯に走る、その軌道は綺麗な円を描き大男の身体をすっと通り抜ける、弾かれた剣は大男の身体の直ぐそばに金属音と共に地面に突き刺さった。
 少年がずれた帽子を直そうと両手に持っていた剣を鞘に収め帽子の角度を調整し始めた、それが終わるや否や大男の身体は右肩から左腹辺りにかけて曲がる事のない一直線な筋が入り大男の身体は鮮血を飛び散らしながら大きな音と共にその場に崩れ落ちた。

「手下の皆さん、あんた達のリーダーみたいになりたくなければ俺達を今すぐにここから逃がしてくれると有り難いんだけどどう思う?」

 ニット帽をかぶった少年が楽しそうに言うと恐怖を骨の髄まで味わった部下達はその身体が自由になると一目散に逃げ出した。その光景を見ながら手を下ろす少年に後ろでびくびくしていた男達は立ち上がり少年達に「流石ですね、お二人とも強い」等と軽い言葉が飛び交う、その言葉に黒い帽子をかぶった少年が言う。

「相手が弱すぎるだけだ、お前達も鍛錬を積めば簡単に勝てるさ」

 そうそう、そんな言葉をニット帽をかぶった少年が軽く流す、すると黒い帽子をかぶった少年はくすくすと笑い出した。その笑い声に周りの男達も笑い初めて最後はニット帽をかぶった少年まで笑い始めた。