翌日、カルナックは自分の部屋に居た。窓から朝日が見えるこの時間、まだ太陽の気配は無い。分厚い雲に隠れ雪が外を舞っていた。昨夜から降り始めた雪は薄っすらと積もり僅かながら外を明るくしていた。

「カルナック、入るわよ」

 アリスがドアをノックしてから入る、中には懐かしい衣装を着ている部屋の主が居た。

「懐かしいわね軍服(エルメア)なんて。アデル君に上げたのが最後の一着じゃなかったのかしら?」
「あれは私が彼ぐらいの時に着ていた物ですよ、流石に大人になってからはあのサイズでは小さくてもう二着貰っていたんです。これに袖を通すのは何年ぶりですかね」

 エルメアだった、緑色であったが物はアデルが着ている物と同じもの。十数年前の帝国が着用していた軍服をカルナックが着ている。腰には愛用の刀が一本、鎖でしっかりと固定されている。

「行くのね」
「えぇ、本当はあの子達がもう少し成長し強くなってからでも良かったのですが……彼が動いたのであれば私も動かなくてはなりません」
「行く前に、やることがあるんじゃない?」
「やること?」

 アリスは溜息を一つ付いて一つ帽子を背中から取り出すと机に置いた。見覚えるある帽子だった、黒くて右目の上に切込みが入った帽子。

「あの子達に貴方の生きた証を教えるのまだでしょ?」
「……」

 暫く沈黙が流れた、深深と降り続ける雪は部屋の温度も急激に下げる。息が白く吐き出されタバコの煙と違いが分らないほどになっていた。

「最後の試練がどれほど危ないかは分ってる、でもそれをやらなければ自分自身に勝つことも出来ない。本当の自分を知ることも出来ない、少なくともアデル君とレイ君の二人は耐えられる。そう育ててきたでしょ?」