「アリス姉さん、何か知りませんか?」

 食器洗いを再開しもくもくと片付けているアリスにレイは尋ねた、だが何も言わずに食器を洗う。その顔には動揺とどこか悲しそうな目をしていた。

「貴方達は神苑の瑠璃の事を聞いて、どうするつもりだったの?」

 一通り片付け終わった後アリスが手を拭きながら話す。

「分りません、先生のあの動揺を見る限り僕達には危険すぎる代物かもしれません。ですが挑む価値はあると思うんです、アデルが話したとおり帝国がその石を狙うのであれば僕達はそれを阻止します。何でも願いを叶えると僕は聞いています、帝国なんかが手に入れたらこの先何をするか分りません。ですから」

「石を手に入れ、破壊する……とか?」

 ココアをコップに注ぐアリス、ゆっくりとカップの中にココアが溜まっていく。七分ほど入ったところで入れるのを止めてテーブルへと向かい、一際大きな椅子に座った。

「かつて、あの人も石を探しに旅に出た。もう何年も前のことよ」
「おやっさんが?」
「そう、今日みたいに風が強くて雪が降りそうなぐらい寒い日だった」

 時刻は夜の十一時を回っていた、部屋を明るく照らすランプも程よく光っていて暖炉に近いプリムラは寝息を立てて眠っている。アデルはレイの隣に座り両腕をテーブルに置きその上に顔を乗せた。

「当時の弟子達は皆石を探すことに反対していた、その中でも異常とまでに反対した一人の弟子がいてね。私と同い年位だったと思う、その人は石について詳しかった。だからこそカルナックが旅に出ることを反対した」
「それで、その石って一体何だったんですか?」
「色々と噂はあったわ、君達の聞いた通り何でも願い事をかなえてくれる奇跡の石だという人もいたし、石を手に入れれば巨万の富と名声を得られるって言う人も居たわ。……全て違ってたけど」

 両手でコップを持ち上げると中に入ってるココアを回し始めた、くるんと回るとカップの縁で円を書いて少し静まる。それを繰り返していた。

「神苑の瑠璃はね、異世界の魔王を蘇らせる儀式で使う神器として一度封印された。二千年も前の話よ」
「アリス姉!」

 ギズーが立ち上がって怒鳴る、アリスはそれを申し訳なさそうな顔をして続ける。

「ごめんねギズ君、私から黙っているように言ったのに」

 瞳を閉じて、困った顔をしながらアリスは首を傾けた。他のメンバーはこの二人が何を話しているのか全く分からないでいる。

「えっと、二人とも一体どうしたの?」

 レイが戸惑いながらも口を開く。

「本当は内緒にしているつもりだったけど」