カルナックはそこまで話すと一度口を紡ぐ、アデルが立ち上がるまでその先に言うことを抑えることにした。バランスを立て直して再び足に力を入れるアデル。乱れた呼吸を整え体にわずかながら残っている感覚を思い出し強くイメージする。両足を肩幅に広げてゆっくりと立ち上がったその時。

「私は君を殺します、死にたくなければ防ぎなさい」

 そういうと強力な衝撃波を放った、その衝撃波はレイの法術障壁をも貫通して襲い掛かる。着ているジャケットの左脇をかすめる様に流れ、ほんの少しだがジャケットに切れ込みが入る。それほどの威力だった。

「うおぉぉぉ!」

 アデルは左手でツインシグナルを鞘から引き抜くと同時に右手のグルブエレスを地面から引き抜いた、左上からツインシグナルを縦に振り下ろしさらにグルブエレスで横に一線を入れた。その瞬間アデル目掛けて放たれた衝撃波が何か目には見えない壁と衝突した。閃光が放たれギギギギと音を立てる。

「これが俺の全力だぁ!」

 アデルが叫んだ、森中に響くような叫び声だった。



 それから三時間、カルナック含めた者は居間に居た。だがそこにアデルの姿は無かった。
 アデルは昔使っていた部屋で気を失っている、意識を取り戻すまでの休憩といっても取れる。何事も無かったようにカルナックはお茶を啜っていた。

「ねぇ先生、アデルは大丈夫なんですか?」

 プリムラが心配そうにカルナックに尋ねた、茶飲をテーブルに置くと笑顔で質問に答える。

「大丈夫ですよプリムラ君、アレぐらいのことじゃ彼はビクともしません」
「そうですか」

 プリムラが安心して自分の前に置かれているお茶に手を出す、周りをふっと見渡すと他の人達はアデルの事を忘れたかのように落ち着いていた。

「ねぇレイ君、何でそんなに落ち着いていられるの? アデルは貴方の親友なんでしょ? 心配じゃないの?」

 突然の質問に自分のジャンバーの切れた部分を縫っていたレイはゆっくりと振り返る、しかし器用なことに手は動かしている。指に刺さることは無いのだろうか。

「ん~、大丈夫じゃないかな。あれしきの事どうってこと無いと思うけど」
「あれしきって……修行時代どんなことしてたのよ貴方達」
「あまり思い出したくないかな」

 一瞬顔が青ざめた、修行時代のことを思い出しているのだろうか。手元が狂い自分の指をサクサクと刺し始めた。それを見たガズルが大笑いする。

「レイ、自分の指さしてるぞ」
「え?」

 ガズルに言われた先を見てレイは大騒ぎし始めた、何発刺したのだろうか血がタラタラと流れ始める。指を自分の口にくわえてもごもごと話し始める。

「修行時代は崖から落とされたり猛獣の討伐に行ったり、さっきの精神寒波はまだ生ぬるいほうだよ。精神的なダメージなら暫くすれば起きると思うんだ。肉体的ダメージなら流石に心配はするんだけどね」