太陽は完全に真南に有った。昼を少し過ぎた頃だ。
中庭には準備を整えたレイとアデルが居る、ギズーとガズルは家の玄関口で煙草を吸いながらぼけーっとしている。最近の二人はこんな感じで一緒にいる事が多い。
ガズルは勉強大好きっ子、ギズーはその類い希な医者としての資質。二人は共に医学という事で結ばれている。食後など暇さえあれば二人で今後の医学の事に語り合っているのも確かで、相当仲が良いと見受けられる。
そしてレイとアデルも同様に、この二人はたったの二年間だが兄弟同然のように育てられてきた。勿論兄貴役はアデル、けなげな弟役はレイ。役者決めはカルナック本人だという。
「さて、インストール伝授の前に一つ調べておきたい事があります」
「はい」「なんだ?」
レイとアデルは同時に返事を返した、二人はカルナックに言われたとおり武器を自分の前に置いている。レイの霊剣は地面に垂直に突き刺さっていて、アデルの剣は両方とも斜めに突き刺さっていた。因みに琥珀の人は静かに地面に横たわっている。
「私が言う事をこれから実際にやって貰い、その結果を私に教えて下さい。先ずは……レイ君」
「はい」
「目を閉じて、エーテルを練りなさい。そして最初に練ったときに頭の中に出た色を教えて下さい」
「色、ですか?」
レイは何が何のことだか分からないままその場で静かに法術を練り始めた。
レイの周りに微弱ながら風が集まっていき、その風はとても冷たく、凍てつくほどの風へと変わった。
「緑色、それに白っぽい水色です」
「緑に水色。典型的な癒しの法術ですね、緑色は"風"、白っぽい水色というのは多分"氷"の事でしょう。次ぎ、アデル」
「……エーテルねぇ」
アデルもレイと同じように法術を練り始めた、法術を練り始めてから数秒後、アデルの足下から急に炎が上がった、そして髪の毛の色も少しずつだが赤く染まっていく。
(これは。そうですか、アデルは炎。何と皮肉な事だ)
「分かりました、アデルの場合は何も言わずに結構です。全く貴方らしい法術だ」
「って、そんなに分かりやすかったのか?」
「えぇ、コントロールはこの際下手でも何でも構いません。あなた方二人の能力は確かに見させて頂きました。今日の所はこれまで、ですが本日の夜に私の部屋に来なさい」
そう言ってカルナックはまた部屋の方へと戻っていった。
その夜、アデルとレイは二人そろってカルナックの部屋の前で出くわした。
「この時間だよね確か」
「らしいな、そろそろ頃合いかなって思ってよ。立ち話も何だしおやっさんの部屋の中に入るとするか」
「だな」
こんこんとドアをノックするがカルナックからの返事はなかった、レイは首をかしげて数秒経ってからドアノブに手を掛けた。鍵は掛かっていなかった。
「先生、入りますよ?」
レイがそっとドアから首を覗かせた、明かりはついていて、机の上で何かを書いているカルナックの姿があった、どうやら何か書物を書いていたらしい。
カルナックはいったん何かに集中すると周りが見えなくなる事がある。それは今に始まった事ではない、昔から。例えるならアデルが養子としてうけ居られる前からの話らしい。
「おやっさん」
カリカリと音を立てながら黙々と文字を書いている、アデルは背中から一刀両断とかかれたはりせんを取り出した。
「ちょっとアデル!」
「大丈夫だよ、こいつなら失神までは行かないけどこちらに気付かせる事ぐらいなら簡単に出来る」
せーのと振りかぶって勢いよくそれをカルナックの頭目掛けて振り下ろした。スパコーンっと快調な音を立ててアデルは勢いに任せてカルナックをひっぱたいた。
ズガンと大きな音がした瞬間カルナックは顔面をテーブルにぶつけた。
「あいたたた、誰です? 私に暴力を振るう人……って、アデル君でしたか」
笑顔でメガネを直して笑う、頭をとんとんと叩いて少しばかり出ている鼻血を止めようとしていた。
「……さて、お二人をお呼びしたのは他でもない。インストールの事です」
頭の後ろに回していた両手を自分の顎の所まで持っていき交差させる。そして少し上目状態で話を始めた。
「先ず、レイ君のエーテルは希少な多重属性です。風を操り氷を発生させる。防御と補助を備えた万能型のエレメントが備わっています、貴方はまだまだ子供ですし、これから修行を積めばいくらでも強くなると思います。剣の腕もそれなりですから、良い法術剣士になれます」
レイに目線を送りそれを話した、少し緊張していたレイはホッとして少しリラックスをして近くの椅子に座った。
「……問題はアデル、貴方です」
「俺に問題?」
「そうです、貴方は生まれつき法術が苦手なタイプです。貴方は法術剣士と言うよりは剣士に近い。ただ少し特異な剣士である事は明白です」
「それとインストールとどんな関係があるんだ?」
アデルは少し強ばった声でそう言った、両手に握り拳を作り歯をギリっと音を立ててかみしめる。
「インストールとは、体内のエーテルを暴走させ、周囲のエレメントを取り込んで一時的に爆発的に強くなる。当然その身体に対するダメージは勿論、エーテルコントロールが上手く行かなければ精神状態はもちろん、ちゃんと活動出来るかどうか定かではない状態になります。言ってしまえばインストール失敗は後に来る自分自身への暴走を前提とした諸刃の剣。これがどういう意味をなすか分かりますね?」
アデルは握り拳をほどいて少し後ろの方に後ずさりした、顔には変な汗と驚きの表情が有った。そして、カルナックの言った言葉の意味を受け入れようとはしなかった。いや、そんなもの受け入れたらどうにかなってしまう。それ程アデルには危険性のある物だった。
「おやっさん、それってつまり……」
「そう、貴方がインストールを習得してそれを使えば、後に残るのは……死だけ」
ジジジと電球が音を立てて点滅を始め、そしてアデルは何も言葉を発する事も出来ずに立ち尽くしていた。
「本来インストールを習得するには様々な能力が必要となります、初めにエーテルの制御と操作。一時的ではありますがエーテルを体内で暴走させるのです、暴走した後正常に戻すための術を身につけておく必要があります。ですがアデル、君にその能力はありません。つまり無謀なのです」
「それじゃレイヴンに勝てない! 他に方法は無いのかよおやっさん!」
すっと立ち上がると本棚へと足を進めるカルナック、それを目で追うレイとアデル。一冊の本を手に取るとその場でページをぱらぱらとめくりはじめた。
「何もインストールを習得できないとは言っていません、方法はあります」
「方法、ですか?」
今度はレイが口を開いた、今までの絶望的な話から一変してカルナックは笑顔で答える。
「インストーラーデバイス、体内で暴走させたエーテルの制御を行う装置です。簡単には作れませんが」
「教えてくれおやっさん! どうすればそれを手に入れられるんだ!」
本を閉じると再び椅子に座る、両手を組んで背もたれに寄りかかって天井を見上げた。
「素材は既に用意してあります、ただ」
「引っ張らないでくれおやっさん、後は作るだけじゃないのか?」
一つため息をついてからメガネを外して机に置く、一度目を閉じて深呼吸をするとアデルを睨み付けた。
「生きるか死ぬかの選択です。アデル、あなたはこの賭けに乗れますか?」
そう言った。もちろんアデルは「当たり前だ!」と言うつもりだったが一瞬戸惑った、それもそうだろう。仮にもしも自分が命の選択を迫られたとき簡単に死ぬ覚悟は出来ている何て事言える人は早々居るはずがなかった。もちろん彼も例外ではない。
「先生」
戸惑っているアデルより先に声をあげたのはレイだった、虚ろな表情でレイは一歩前に踏み出してアデルの肩にポンと手を置いた。アデルは相方の表情を見て少し笑った。
「僕だけがインストールを使えるようになったとして、そのレイヴンって人に勝てる確立はどの位ですか?」
「レイ君だけがインストールを使えたとしたら?」「レイ、何を言ってるんだ!?」
肩に置かれた手に力が入っていた、ギュっと一度強くアデルの肩を握り目はカルナックを見つめていた。
「教えてください先生、僕達の兄弟子。レイヴンに勝てる確立を」
カルナックは黙った、真実を告げていいのかはたまた無理にでも諦めさせるのか。師としては複雑な気持ちだったろう、自身が育てた弟子同士が合間見えることがあったとは思いもよらず……いや、少なからず反帝国感情を抱いていた二人を育てていたときにそれは分っていたことだったのかもしれない。
「限りなく低いです、それも一桁でしょう」
「一桁、それでも勝ち目は一桁だけの数字があるんですね?」
「いやレイ君、確かに勝率は一桁だが残りの数を考えれば君一人インストールを使えたところでレイヴンに勝てるはずが」
「先生!」
レイは机にもう片方の手で叩いた、久しく見ていなかった我が弟子の感情的な顔を見てカルナックは驚いた。
「アデル、インストールとは自信との戦いです」
「え?」
突然話を振られたアデルは何を言われたのかよく理解できていなかった。自身との戦い? それはどういう意味なのだろうか。
「二人とも表で待機していてください、後ドアの外に居る二人も一緒に来なさい」
「ドアの外?」
数秒の沈黙があった後ドアが開いた、そこにはガズルとギズーの姿があった。バツが悪そうにゆっくりと入ってくると二人は頭を下げた。
「それで先生、話を戻しますがインストーラーデバイスについて詳しく」
「インストーラーデバイスとは、先ほど説明した通りインストール時に置けるエーテルを一時的に制御させる装置のことを言います。ただしこれを使えば安易にインストールが使えるというものではありません。インストーラーデバイス自体の効果は装備者の精神状況で異なります。また、暴走させたときに発せられる膨大なエーテルを押さえ精神負荷を抑える効果も発揮します」
外に出た四人を前にしてカルナックが説明を始める、右手首に腕輪をはめていた。それがインストーラーデバイスなのだろう。
「見た限りではレイ君で十二分は制御可能でしょう、しかしアデル。君がインストーラーデバイスを使ったとしても持って五秒が限界だと思います」
「たったの五秒!?」
四人はその言葉を聴いて驚いた、確かにアデルは法術が苦手なのは知っている。しかし彼のエーテル制御は一般の術者と大差変わらない物だと思っていた。だからこその法術剣士と名前が通っていた。
「ちょっと待ってくれ、確かに俺は法術が苦手だけどたったの五秒で何をしろって言うんだ!」
「五秒と言う時間は確かに短い、だからこそ今の君ではインストーラーデバイスを使ってもインストールを使うことが出来ないという事に繋がるんです。正確に言えば無駄なのです」
「なら、どうしろって言うんだ。インストーラーデバイスですら意味の無い物になってるじゃないか」
「それを今から行うんですよ」
全く意味の分らない事を話すカルナックに四人は揃って首を傾げた。
「一つ良いかな剣聖」
ガズルが一歩前に出て困惑した表情で話し始める、右手に重力球を作り出してそれを体の前に持ってくる。
「根本的な話で悪いんだが、俺のこの重力を操る力。これを応用して何かレイヴン対策で出来ることは無いか? もしくは俺にもインストールってのが習得できるものなのか?」
「ガズル君、インストールは誰でも習得できるものではありますが君の場合天性の力です。私も長い間色々な人を見てきましたが重力を操る力を持ってる人とは出会ったことがありません。その力がましてやエレメントを利用した法術なのか、はたまた別の力なのかも検討がつきません」
グルグルと渦を巻いている重力球を右手で握りつぶす、期待の眼差しでカルナックを見つめ始めた。
「なら、俺にもインストールを教えてくれ。あのレイヴンに一泡吹かせてやりたい!」
「勇ましいことです、ですが先ほども話したとおり君の力が法術なのか、それとも別の力なのか分らない以上インストールを教えることは出来ません。仮に教えたとしてもどの程度エーテルが暴走するのかが分りませんしアデルより危険です、今は諦めなさい」
「そうか、アデルより危険か」
ものすごく残念そうな顔をして肩を落とした、それを見ていたギズーは思わず吹き出してしまった。同じくアデルも笑っている、申し訳なさそうにしてるのはカルナックとレイの二人だけだった。
「さてっと、ではインストーラーデバイスを使えるかどうかの試験を始めます」
「いよいよ本題か、おやっさん俺は何をすればいいんだ?」
ニヤっと笑みをこぼすとカルナックはズボンのポケットに右手を突っ込んだ、とっさにレイ達は各々の武器を取り出して戦闘体制を作る。
「私に触れてみなさいアデル」
そういうとカルナックを中心にブワァっと重たい空気が流れ出した、その空気の重さに辺り一面が緊張する。最初に崩れたのはギズーだった。法術を一切使えない彼にはあまりにも辛い空気だ。
「な……んだこれ!」
次にガズルが崩れる、方膝を地面について身動き取れないで居た。アデルはかろうじてその中で立っていられた。レイは涼しそうな顔をして三人を見た。
「三人とも何でそんなに苦しそうなんだ?」
「は!?」「え!?」「何だと!?」
三人が同時に声を上げる、眉一つ動かさずにレイはその場で立っている。カルナックも驚いていた、これほどの重圧を作り上げても尚レイは涼しい顔をしていたことに正直彼の才能を疑った。
「レイ君はこの程度では何とも無いようですね、そちらの二人は大丈夫ですか?」
「まだまだ!」「動けないけど、何とか……」
「わかりました、ではもう一段階ギアを上げます」
カルナックは二人の同意を受けた上で一つ法術のギアを上げた、今度は重圧に加えて真空の様なすさまじい衝撃波を加えてきた。その法術にガズルとギズーは大きく後方へと吹き飛ばされる。
「よっと」
吹き飛ばされた位置にシトラが待ち構えていた、二人を受け止めると溜息をついてカルナックへ文句を言う。
「こらー先生、こんな子供相手に精神寒波使うなんて何考えてるんですか?」
「いやぁ、シトラ君助かるよ。その二人を家の中に逃がしてくれないか?」
ニコニコと左手で手を振るカルナックにあきれた顔でもう一つ溜息をついた。二人を両脇に抱えながら走り出した。玄関の前に来ると自動的にドアが開く、アリスだった。両脇に抱えられて居る二人は思わず『なんで!』と叫んだ、確かに二人がそう叫ぶ理由も分らなくはない。
「さて、ここまでしてもレイ君は何とも無いんですね」
「あ……はい、特に何も」
レイは相変わらず汗一つかかずにそこに立っていた、流石にこれを見たカルナックも困惑の表情を隠しきれない。同じ理由でアデルも表情を曇らせた。
「あの衝撃波をまともに食らって何でお前はそんなに平然としてられるんだ!」
「そう言われても」
アデルはついに右ひざを地面に付けた、ガクガクと震えながらカルナックを睨み付ける。
「こんな状況であんたに触るなんて出来るわけないだろ! 何を考えてるんだ!」
アデルの言うことも一理ある、だがその隣で平然として立っている男が居る。それが何よりの疑問に感じるアデルは戸惑っていた。
「先ほどもお話した通りインストールを扱うにはエーテルの制御が必要不可欠です。何故レイ君が平然としていられるか、何で君がこんなに苦しいのか。その違いは制御力の違いです。私は君たちに重圧を掛け、真空波で吹き飛ばそうとしました。だがレイ君はそれを押し退けた、これは周りのエレメントを制御することで無意識の内に対法術障壁を展開させています。それに対してアデル、君はそれを操る術を知らない。だから無防備に私の精神寒波を受けているんですよ」
「それでおやっさんに触ってみろか……難しい宿題が出たもんだ」
「先ずはそれを習得しなさい、そうすればレイヴンの攻撃も緩和できるでしょう」
ゆっくりと地面についていた膝を起こそうと上体を上げる、そこにまた一発衝撃波が飛んでくる。先ほどとは違いダメージを負った体でそれをまともに貰い後方へと吹き飛ばされる、背中から地面に叩きつけられてピクリとも動かない。
「いってぇ!」
体は動かなくても口は動くようだった、一瞬気絶したかのように思えたが間一髪意識は繋いでいた。両手を使って体を起こし立ち上がろうとする。
「なるほどな、これを克服しなければ進むものも進まないって事がよく分った。あのレイヴンって野郎もあんたの弟子だ、もちろんこれが使える、これを克服できなければ動かない的を簡単に攻撃するだけで相手は倒れるって事か」
グルブエレスを地面に突き立てて杖の代わりにした、中腰の状態まで何とか持ち直すことが出来たアデルだったがそこに衝撃波が再びアデルの体を襲う、今度はグルブエレスを握り締めていたおかげもありバランスを崩す程度で済んだ、それを見たカルナックは一つ笑みをこぼす。
「今の感じですアデル、わずかながら障壁を展開しましたね。もちろん無意識だとは思いますが感覚は体に残っているはずです、それを強くイメージしなさい。そして展開しなさい。次の一発……」
カルナックはそこまで話すと一度口を紡ぐ、アデルが立ち上がるまでその先に言うことを抑えることにした。バランスを立て直して再び足に力を入れるアデル。乱れた呼吸を整え体にわずかながら残っている感覚を思い出し強くイメージする。両足を肩幅に広げてゆっくりと立ち上がったその時。
「私は君を殺します、死にたくなければ防ぎなさい」
そういうと強力な衝撃波を放った、その衝撃波はレイの法術障壁をも貫通して襲い掛かる。着ているジャケットの左脇をかすめる様に流れ、ほんの少しだがジャケットに切れ込みが入る。それほどの威力だった。
「うおぉぉぉ!」
アデルは左手でツインシグナルを鞘から引き抜くと同時に右手のグルブエレスを地面から引き抜いた、左上からツインシグナルを縦に振り下ろしさらにグルブエレスで横に一線を入れた。その瞬間アデル目掛けて放たれた衝撃波が何か目には見えない壁と衝突した。閃光が放たれギギギギと音を立てる。
「これが俺の全力だぁ!」
アデルが叫んだ、森中に響くような叫び声だった。
それから三時間、カルナック含めた者は居間に居た。だがそこにアデルの姿は無かった。
アデルは昔使っていた部屋で気を失っている、意識を取り戻すまでの休憩といっても取れる。何事も無かったようにカルナックはお茶を啜っていた。
「ねぇ先生、アデルは大丈夫なんですか?」
プリムラが心配そうにカルナックに尋ねた、茶飲をテーブルに置くと笑顔で質問に答える。
「大丈夫ですよプリムラ君、アレぐらいのことじゃ彼はビクともしません」
「そうですか」
プリムラが安心して自分の前に置かれているお茶に手を出す、周りをふっと見渡すと他の人達はアデルの事を忘れたかのように落ち着いていた。
「ねぇレイ君、何でそんなに落ち着いていられるの? アデルは貴方の親友なんでしょ? 心配じゃないの?」
突然の質問に自分のジャンバーの切れた部分を縫っていたレイはゆっくりと振り返る、しかし器用なことに手は動かしている。指に刺さることは無いのだろうか。
「ん~、大丈夫じゃないかな。あれしきの事どうってこと無いと思うけど」
「あれしきって……修行時代どんなことしてたのよ貴方達」
「あまり思い出したくないかな」
一瞬顔が青ざめた、修行時代のことを思い出しているのだろうか。手元が狂い自分の指をサクサクと刺し始めた。それを見たガズルが大笑いする。
「レイ、自分の指さしてるぞ」
「え?」
ガズルに言われた先を見てレイは大騒ぎし始めた、何発刺したのだろうか血がタラタラと流れ始める。指を自分の口にくわえてもごもごと話し始める。
「修行時代は崖から落とされたり猛獣の討伐に行ったり、さっきの精神寒波はまだ生ぬるいほうだよ。精神的なダメージなら暫くすれば起きると思うんだ。肉体的ダメージなら流石に心配はするんだけどね」