森の中、二人は肩を並べて歩いていた。
 レイの昔話を聞いたメルは本当にショックだったのだろう。先ほどからずっと下を向いたままだ。

「ははは、やっぱりまだこの話はきつかったかな?」

 場の空気を読んだのか、レイは少し明るめにふざけた感じでそう言った。だけどメルは俯いたままだった。

「何で」
「え?」
「何でレイ君はそんなに元気でいられるの? 何で無理をしてまで明るく振る舞うの。嫌だよ私、私は……私は未だ……私は未だレイ君の本当の笑顔を見てないって事じゃない!」

 レイのふざけた行動はそこで終わった。確かにそうかも知れない、レイ自身。生まれてこの方……いや、カルナックの元で暮らすようになってからは未だ本当の笑顔は出していない。勿論それはメルにも言えた事、メルの辛い過去は、レイほどではないがそれ相当の物。しかし、メルの笑顔はレイにだけは本物だった。

「私、見たいよ。レイ君の本当の笑顔が見たいよ!」
「……」
「約束してレイ君。何時か、何年かかっても良い。本当にレイ君が報われるときが来たら、その時は私に本当の笑顔を見せて」



「とまぁ、こんな感じらしい。でも本当かどうかなんて俺には分からないしおやっさんも……。知ってるのはレイ自身だけ」
「凄い話だな、それ……」
「うん、私もそう思う」

 アデルはガズルとプリムラにレイの話を聞かせていた、アデル自身もその話を聞いたときは相当のショックを受けたらしい。だけど今はもう年月が経っている性もあり他人にその話を出来るほどまで回復していた。

「アイツは、俺なんかよりも凄い過去を持ってる。だけど、それを表に出さないのは相当辛い物があると考えて良いだろうな」
「確かに、まだ七歳半の時にそんな事を体験していたなんてな」

 ガズルが帽子を取った、その整った顔にたき火の炎が紅く照らす。アデルは帽子を被ったままだ。

「あいつは、本当に強い人間何だなって思う瞬間だな……まさに」
「もしかしてレイ君が帝国を嫌ってる理由って」

 プリムラが突然口を開いた、その真剣な表情の中には何が映し出されているのか。

「多分、考えてるとおりだと思うよ? 正直アイツはまだ過去の事を引きずってるし、何よりこれからはアイツの旅になる」