アリスはそのまま動かずに笑っていた、ギズーがゆっくりとベッドから起きあがり窓を開ける、そして煙草に火を付けた。

「他のみんなは?」
「家の外、バーベキューをしてる所よ」
「バーベキューだぁ? 良いのかよ、修行そっちのけでこんな遊んでて」
「今だから、最後に遊べると思うの」

 アリスは立ち上がった、そしてギズーのそばまで来ると懐から煙草を一つくすね取った。そして法術で簡単に火を付けてしまった。

「おいおい、アリス姉って煙草吸えたっけか?」
「あら、心外ね、私だってそれ位はあるわよ。カルナックには内緒だけどね」
「ふーん。それで、何で今だからこそ遊んでいられるんだ?」
「……」

 アリスは何処か寂しそうな表情をしていた、それが窓の外に誰かに向けられている事にギズーは気付かなかった。

「レイ君よ」
「あ?」

 突然レイの名前が浮かび上がったと思ったらその直後にしばらくの沈黙、この沈黙がギズーにはとても嫌な沈黙にも感じられた。

「最後くらいは、レイ君のわがままを聞いてあげても良いんじゃない?」
「わがまま?」
「君達はこれから"神苑の瑠璃"を探しに行く、それは何でも一つだけ願い事を叶えてくれると言う神秘の宝石。故に、その瑠璃をめぐって大きな争いも、戦争すら起こりえた事。人々は、神々の持ち物に手を出そうとまでしていた。そして……あの戦いが起きた」

 突然この星に起こった出来事を順々に語り出していく、この星が記憶していた出来事を一つ一つ……。

「ギズ君も知ってるよね? 中央大陸最大にして最悪の七日間を」
「"セルク・ブルセルムの乱"、死者三十万人、重軽傷者二百五十万人、被害総額数千億シェル。今から十年程前の話だったか」

 以前、誰かに教えて貰った微かな記憶を脳の片隅から呼び戻し、一つ一つ復唱するようにギズーは答えた。そしてその言葉はギズーに有る一つの可能性を呼び起こさせる。

「俺達が動いているという事は、勿論帝国にもその情報は伝わってる。そう考えても良いのか?」
「えぇ、既に瑠璃の探索に全力を注いでいる頃よ。勿論あなた達の事も」
「それとこれとレイと何の関係があるんだ? 何も関係ないじゃないか、帝国が牙を向いてきたらそれを撃退する。それが俺達だ!」
「この戦い、レイ君は死ぬつもりかもと言ったら?」