“私が知っている海は、全てを飲み込む漆黒の闇。私が知っている空は、全てをなぎ払う雷の巣窟。私が知っている人間は、弱き存在。何時の時代でも私を満足させてくれる人間など存在しない。そして私はその愚かな人間共の手によって封印されてしまった。だが私は媒体(からだ)を手に入れた、何時しか訪れる覚醒の為にこの(にんげん)の中に潜む事になった。それがこの者に与えられた私への運命だ!”

 “僕は気付いていた、自分の中に僕とは別の存在がいる事に。それはメルが僕の夢の中に出て来たときから始まった、いや……たぶんその時からだろう。何か今までと違う、一時の感情に過ぎないと思っていたけど、それもどうやら間違いのようだ。本当に僅かだが僕の身体にも異変が見られるようになった。僕の身体の中にもう一人何か別の生命体がいると思うと、とても嫌な感じなる”

 “私はこの少年に対して感謝の意を表さなければならない、私はこの少年の身体に寄生し今を生きているのだから。私はこの少年がピンチになったとき、その力を貸そうと思う。だがこの少年には仲間という大切な人間がいると分かった。その者達に私の姿を見せたら多分……いや、必ず驚くだろう。こんな魔物のような姿をした私に対して憎悪や憎しみ、そして怒りすら感じるであろう。だから、私は極力この少年の身体から外に出る事を控える事にした”




「いつまでそうしているつもりだ?」

 少年が考え事をしながら食事を取っているとき後ろの方から聞き慣れた声が聞こえた、コーヒーカップを地面に置きゆっくりと振り返るとそこには既に支度を調えた仲間達が少年の方を見ていた。

「あぁ、ごめん。今行くよ」

 少年はバツが悪そうにゆっくりと立ち上がり地面に置いてい有った鞄を背負うと仲間の方へと歩き出した、一番重い荷物を肩に背負ってゆっくりと歩き始めた。

「後少しで先生の家だ。ちょっと疲れただけだから」
「らしくねぇな、そんなんじゃギズーに剣術越されるぜ?」

 黒い帽子をかぶった少年がこちらに歩いてくる青髪の少年にそう言った、苦笑いをしながらギズーと呼ばれた少年の方を向きはははと笑った。ギズーは何処か不満げで、知らず知らずのうちに右腰のホルスターに手を伸ばしていた。

「さっさと行くぞ」