「そうなんです、だから早めに薪を割って準備をしているのです。ね? ビュート君?」
「ハイ! 先輩達に会えると思うと今からわくわくしてきます!」

 アリスは成る程とうなずいてから笑顔を作る、そしてまた部屋を掃除し始めた。
 ところで、今カルナックの前で薪を割っているこの少年、黒い髪の毛でそれ程長くはなく、身長でそれ程高くはない。良くも悪くも普通の男の子だ。名前は“ビュート・ヴァレステルン”、孤児だ。毎度によって例の如くカルナックが拾ってきた子供である。彼はこの中央大陸で“ヴァージニア”と呼ばれる少年だけのモンスター退治を専門とする組織に携わっていた。そのヴァージニアが数か月前、カルナック家よりほど近い森でモンスター退治をしている最中魔物の奇襲により壊滅寸前の所まで追い込まれていた。そこへ丁度散歩をしていたカルナックに助けられたのが始まりだった。
 可哀想に思ったこの馬鹿みたいなお人好しはビュートをアデルやレイ同様に孤児として我が家に迎え入れて剣術を教えている。因みに、ビュートは本当に孤児だ。

「あれからどの位経ちましたか、貴方の腕は着実に上達していますよ。それも見違えるほどにです」
「ほ、本当ですか! 有り難うございます! でも、何で僕が先生の変わりに薪割りをしなくちゃ行けないんですか?」
「お恥ずかしい話ではありますが、私ももう年ですからね、この手の作業は若い人に任せた方が早く終わるのですよ。因みにこれも修行の内です」

 乾いた薪が割れる同じ音がカルナック家の周りに響く。ビュートはこの寒い空の下一人汗をかいている、当然であろう。先ほどから何百という薪を割っているのだから尚更だ。

「さて、そろそろ薪を使わずに楽しくやりましょうか?」
「ぜぇぜぇ……薪を使わずに楽しく、ですか?」
「えぇ、貴方の“G・B・トンファー”を使ってやりましょう。その武器はとても面白い構造をしています。私的にも興味があるのですよ、あなた方の先輩も薪割りで斧を使った事なんて中々ありませんでしたよ。大体が自分の武器でやっていましたよ」

 笑顔でカルナックがそう言った、そして先輩の言葉を聞いた瞬間ビュートの目の色が変わった。そしてビュートは楽しそうに薪を二十個、一直線上に並べて両手に自分の愛用の武器を装着する。