そこでレイはさっき自分が何を言おうとしたのか、何をしようとしたのかを改めて思い出す。そう、相手の言葉に煽られたかもしれないが後一歩アデルとギズーの対応が遅かったら間違いなくガイを殺していたかもしれない。無防備な状態で精神寒波を直接受ければどうなるか、彼等はよく知っている。身動きできなくなったところに大量のエーテルをぶつけ氷漬けにさせる事だって可能だ。

 ギズーはそこまで理解して瞬時に動いていた。
 アデルの傍に座っていたという事も相まって直ぐに動けたのだ、勿論ガズルもすぐさま止めようとしていたがレイの真後ろに座っていた為アデルから少し距離があり、先に動けたのはギズーの方だった。

「そうだぜ、あのまま暴走させてたら俺の炎帝剣聖結界(ヴォルカニック・インストール)も維持できなくなってただろうし、何より危ない所だったんだ。ギズーの咄嗟の判断に感謝しないといけないんだぜレイ」
「――僕は」
「でも気に病むな、誰も皆万能じゃない。俺だってキレる時はキレるしガズルもプッツンしたら手に負えなくなる。ギズーに関していえば言わずもがなだろ。だから今回お前がキレた事をとやかく言う奴なんていねぇさ。心配するな」
「――それでも、それでも僕はっ!」

 涙が溢れだした。
 ガイの言う事が正しければ現状彼等のポジションは危ういバランスで立っている、そこに海上商業組合(ギルド)の後ろ盾を無くすようなことになれば、ましてや海上商業組合からも狙われるようなことが起きれば皆の命にだって関わってくる。ソレを実感した瞬間レイの瞳から涙が溢れ始めた。

「僕は、皆をこれ以上危険に晒すところだった! 僕は――っ!」

 頬を伝わる涙はレイのズボンにポタリ、ポタリと落ちていく。アデルは自分達のリーダーがこれ程までに自分達を気にしていた事、きっとあの日メリアタウンで戦死した彼等の墓標の前で流した涙の時からずっと抱え込んでいたのかと、二つも年下の少年に何もかも背負わせていたのかと悔やんだ。

「馬鹿が、俺達の事信用してるならもっと頼れよ。お前一人に何もかも押し付ける何てことさせねぇよ。俺達七人全員でFOS軍だ。俺達は一心同体だけどお前だけはもっと気楽に生きて良いんだ」
「そうよレイ、何もかも全部背負い込む必要は無いんだよ。だから大丈夫、大丈夫だから」

 ギズーの言う情緒不安定とはきっとこの事だろうとミトは思った、そこまで考えてあの場所から連れ出す様に言ったのかと、彼の事を一番に考えるギズーだからこそ咄嗟にそう考えたのだろうかと思った。そう思わざるえなかった。



 話し合いが終わったのはそれから二時間が経過した辺りだった。
 ゆっくりとドアが開いて中からガズルとギズーが何かを話しながら出てくる。その後ろからミラとファリックが疲労を隠せない表情で出てくると、最後にガイが神妙な面持ちで出てくる。

「終わったぞレイ、少しは休めたか?」
「ギズー……ごめん」
「気にすることはねぇ、そうだろガズル?」
「あぁ全く持って気にすることじゃ無いな、こういう交渉だとかは本来俺の役割だからな。上手い事纏めたから後で詳細を聞いてくれ。だがその前に――」

 会議室から出てきた四人はゆっくりとガイへと振り向き道を開けた。同時にレイの元へと足を運ぶガイの姿があった。

「――謝罪する剣聖、申し訳なかった」

 レイの前にまで足を運ぶと深々と頭を下げた。

「そしてあの発言は撤回する、君達を試すようで申し訳ない事をした。同時に言っていい事と悪い事の区別を付けずに発言した事を謝罪する」