部屋を後にした三人は近くの椅子に腰を掛ける。
 アデルはあまり見た事の無いレイの姿に動揺し右往左往している、その間ミトはレイに言葉をかけ続けた。

「大丈夫?」
「……うん、ちょっとだけ取り乱した」
「アレがちょっとね、剣聖の名前は本当に伊達じゃないのね」
「そんな事は無いよ、本音を言えばまだ僕に先生の後を継ぐ資格なんて無いしまだまだ未熟者だ。さっきだって感情を抑えきれずエーテルが暴れた。先生が居たら何て言うか」
「何でもかんでも背負い込み過ぎ、隣を見てみなよ」

 両手で顔を覆うレイにミトが左側を指さして見せた。慌てふためくアデルの姿があまりにも滑稽で可笑しかったからだ。ゆっくりと顔を上げて指さす方へ目線を向けるレイ。

「何してんだよアデル」
「だってお前、いきなり氷結剣聖結界(ヴォーパル・インストール)なんて使うし周りに俺達もいたのに精神寒波は放つしでびっくりするだろう!」
「そうだよね、びっくりしたよね。僕だって驚いたんだ。感情に負けそうになっても何とか冷静になろうって思って、それでも体の底から湧き上がる感情には勝てなかった。暴走するってきっとこんな感じなんだろうなって少しだけ怖くなった。それでも僕は許せなかった」
「確かに俺も許せねぇと思ったさ。でもよ、ギズーが言っただろう。お前だけはこっち側に来るなって、アレはお前の為を思って言ったんだ」
「分かってる、でも僕達はチームだ、僕だけ汚れ役をやらないってのは違うだろうアデル。それじゃまるで僕もあいつ等と同じになっちゃうんだ」

 そう、ギズーのあの一言で我に返ったレイ。お前だけはこっち側に来るな。ギズーがそう願いそう言い聞かせるように放った一言だった。その言葉にレイは少なからずショックを受けていた。
 共に困難を突破し、共に笑い共に進んで来た仲間である彼等だ。皆が皆同じ経験をしてこの先も歩んでいくものだとレイは思って居ただけにあの言葉が心に刺さった。

「僕達は何をするも常に一緒だった、一緒だったからこそ進んで来た道があると思って居たんだ。だから僕だけが手を汚さないなんて許されるはずがないんだ」
「違うよレイ、そうじゃない」

 落ち込むレイに再びミトが声を掛ける。

「ギズーが言ったのはね、お前だけはこっち側に来るなでしょ? それはきっと感情のまま動いてはいけないって事なんだと思う。アデルやガズル、ギズーは勿論だけど少なくとも感情で人を傷つけようとしたことが有るんだと思う。君は今私達のリーダーなんだよ、だから冷静に状況を分析しなくちゃいけない。だから感情のままに動いちゃダメ、君が私達を取りまとめないといけない。そう言う意味なんじゃないかな」

 真剣な表情の裏にレイを心配する一面が残るミトがそこに居た。ガズルもギズーもアデルも、いや、少なくとも人であれば感情のまま動く事も少なくはない、だがそれでは大局を見失う事もあるのも事実で、リーダーとして負うべき責任は他にある。

「君はさっき何を言おうとしたのか覚えてる? 私はまだ付き合い短いけど、何度もギズーに言ってたよね。むやみに人を殺してはいけない、感情のまま引き金を引いてはいけないって。ギズーはあんな風に見えて君の言葉ちゃんと理解して守って来てると思うよ。だから君が破ってはダメ」