この話を聞いてレイ達は不信感に煽られた、体よく纏められた話ではあるが中身がまるでない。いや、中身などある筈がなかった。彼等への投資は怠らないが自分達はこの戦争で何かをするつもりは無いと言っているのと同じだ。補給はするが戦闘はしない。それがアデルとギズーの苛立ちを加速させた。

「おいオッサン、てめぇ随分とそんな都合の良い事をベラベラと――」

 アデルが立ち上がって文句を言った矢先、彼の顔面スレスレを弾丸が飛んで行った。乾いた音が部屋の中に鳴り響き弾丸はガイの後ろにあるコルクボードを貫通した。

「黙ってろアデル」
「ギズー――テメェ!」
「黙れ、俺達のリーダーは未だ何も言ってねぇ」

 アデルに銃口を突き付けたまま睨みつけてそう喋るギズー。アデルは視線をレイへと落として言葉を失った。

「――て来ました」

 今まで見た事の無いほどの殺気を帯びていた、レイの周囲だけがとても冷たく重い空気になっている。仮に触れる事が出来るのであれば、それはとても冷たい物だったろう。

「――大勢の知人や友人がこの戦争で死んでいったのを僕達は見てきました。その中にはあの街にとって……いえ、僕達にとって(・・・・・・)掛け替えのない人も居ました」

 感情が膨れだす、溢れ膨れるソレはレイのエーテルに反応して周囲の温度を徐々に下げ始めた。

「その中には貴方達の同胞も居たはず、それなのに貴方は誰がどれだけ死のうが知った事では無いと仰るのか」

 ガイは目の前で起こる情景に目を疑った。
 噂に聞いただけの存在、目の前にいるのはただの子供。剣聖の弟子であるがまだ年端も行かないただの子供。今し方迄そう確信していた。しかし。

「彼等は英雄だ、逃げずにあの場所で文字通り命を懸けて戦った英雄達だっ! それを冒涜するというのなら僕達は許さない。あの人達は――あの人(レナードさん)はアンタ達の為に戦ったんじゃないっ! このクソッタレな世界の為に戦ったんだ!」

 そこで決壊した。
 暴走寸前のエーテルに感情が干渉し、周囲一帯が急速に凍り付き始めた。咄嗟の事にアデルが炎帝剣聖結界(ヴォルカニック・インストール)を発動させ五人を守る。

「落ち着けレイッ!」
「コレが落ち着いてられるって言うのかアデル! この人は――こいつ等はっ!」

 溢れだす負の感情は留まる事を知らない。
 先の戦い、メルリスを失った時に見せた暴走寸前のレイをアデルは必死に宥めようとする、このまま感情に身を任せてはレイの体がもたない事も理解してる。それ故の説得だった。

「許せるはずがないだろアデル! 戦火の届かない所でのほほんと椅子にふんぞり返り自分は血を流さないで利益だけをかすめ取ろうとするクズ野郎だ! あの人(レナードさん)じゃなくコイツがあの場所でし――」

 そこまで言うとレイは言葉を失う、目の前に突き付けられる銃口とその奥に見えるギズーの顔があった。

「――止めろレイ、お前がそれ以上言うな」

 その表情はとても、とても冷え切っていた。
 常にけだるそうにしているギズーは防御されてるとは言えレイの放つ精神寒波の真正面に立ち、冷めた目でレイを見つめていた。

「ソレは俺の仕事だ、お前だけはこっち側に来んな。ミト、レイを連れて外に出ていてくれ。(商談)は俺達で進める」
「ギズー……」

 暴走していたレイのエーテルは徐々に落ち着きを取り戻し、周囲の冷気もゆっくりではあるが元に戻りつつあった。この状況を見ていたガイは彼等の評価を改めなくてはならないと瞬時に理解した。

「さて統括、家のリーダーはちょっとだけ情緒不安定なんだ。あまり逆鱗に触れるような事は慎め、死にたくなければな」
「――あ、あぁ。そうらしいな」

 ゆっくりと落ち着きを取り戻したレイはミトに手を引かれ部屋を後にした、同時にアデルも二人の様子を心配し部屋を後にした。残ったのはガズル、ギズー、ミラ、ファリックの四名とガイ。

「それじゃぁ始めようか、下手な事をすればさっきみたいになるが俺は止めねぇ。次は無いと思え」