「元々帝国とは反発し合う間柄だった二カ国と海上商業組合だったんだけど、戦争って程の戦闘は起きていなかったらしいんだ。でも蒸気機関車が奪取された事を皮切りに三勢力が一度に宣戦布告をして今の戦争が起きた。それでも海上商業組合は布告したけど戦う力はほぼ無くて即時降伏、だから今回こちら側に付いてるのは離反みたいなもんなんだ」
「戦う力が無いのによく宣戦布告したね」
「それほど当時は上層部の頭に血が上っていたんだと思うよ。今考えると一番先に攻め落とされるのは物資を抱えてる海上商業組合だからね。補給線を断つのは基本中の基本だって先生が言ってたよ」
霊剣の手入れをしながらミトの質問に答えているのはレイだ、刃こぼれ一つしない大剣をじっくりと観察し、曇りを丁寧に取り除いている。
「そもそも海上商業組合の本拠地ってどこになるの?」
「昔は中央の南にあったって話だけど、帝国との戦争で壊滅させられて今は散り散りだって聞いてるよ。それこそクリスさんなら現拠点の場所を知ってるだろうしそっちに聞いてみた方が早いかもね。教えてくれるかはまた別問題」
「それもそうね、所で……」
本を閉じて棚へと戻し、窓の外へと目を向けた。
「あの馬鹿達何やってるの?」
ミトの視線の先にはアデルとガズルが共に甲板で釣りをしていた。食料は往復分積み込まれていて不自由する事の無いこの船旅において魚を釣ろうとしているアデルとガズルが気になっていた。
「気分転換じゃないかな、何かしてないと落ち着かないんでしょ。ほら、プリムラの件があるから」
「あぁ、なるほどねぇ」
安否確認が取れていないプリムラの事ばかりが二人の頭を過っていた。何かしていないとその事ばかりを考える様になってしまいどうにも落ち着かないでいるアデルとガズル。筋肉トレーニングから読書、船中の探索と出来る事はあらかたし終えて現在は釣りに没頭している。三十分ほどヒットは無い。
「何だかんだ言って心配してるんだよ、好きな人だからって事もあるだろうけど」
「親友同士好きになる相手も同じねぇ、仲良いのねあの二人」
「時々喧嘩もするけど、喧嘩するほど仲が良いって言うじゃない? 昔のコトワザみたいだけど」
「初めて聞いた――ううん、覚えていないだけかもね」
外で釣りをする様子を窓際まで移動して眺めるミトと、変わらず霊剣の整備をしているレイの二人の間にそんな会話が生まれた。徐々に記憶を取り戻しているミトの表情はどこかやるせないようにも見える。
「記憶の方はどう? 何か思い出せた?」
「ちょっとずつ思い出せては来てるんだけど、今一確証を得るような物はまだぼんやりとしてる感じ。何て言えばいいのかな。靄がかかってるというか霧で見通しが悪いと言えばいいのかな。思い出してきたのは相変わらず戦いの事だけで肝心の「私がどこの誰で、何でここに居るのか」はさっぱり。無理に思い出そうとすると頭が割れる程痛くなってまだ無理ね」
「そうかぁ、でも徐々に思い出せて来てるのは良い事だねミト」
「そうかしら? 戦い方だけ思い出せても何にもならないよ」
そう語るミトの横顔はどこか寂しそうに見えていた。肝心の自分が誰なのかが分からず戦い方だけが思い出せる現状に苛立ちにも似た感情が芽生えていた。その苛立ちはミラ、ファリックも同様だった。
何故戦うことが出来るのか、何故自分達に戦闘技術があるのかが一切不明であり困惑する。だが結果としてそれが彼等をこの時代で生き抜く術であると理解している。故に不安が彼ら三人の脳裏を過ぎった。
「気にするなって言うのも無理な話だけどさミト、分からない答えを探すのだけが全てじゃないよ。今君達がこの時代に居るのに何か理由があるとしたら、肝心な所だけぽっかりと空いてる記憶もまた意味があるのかも知れないよ」
「――意外とロマンチストだよねレイって。そうね、もしかしたら意味があるのかも知れないね」
レイの言葉にミトはそっと微笑みながらそう答えた。
各々が抱えた悩み、不安を乗せて海上商業組合の船は一路西大陸へと向かう。
消息が見えないプリムラや先行して西大陸へと渡ったカルナック達と合流すべく彼等は港町「リトル・グリーン」へと向かう。中央大陸で起きた大規模衝突以上の戦いがこの先彼等に待ち受ける事は必至、それ故にレイの表情はどこか硬かった。
「戦う力が無いのによく宣戦布告したね」
「それほど当時は上層部の頭に血が上っていたんだと思うよ。今考えると一番先に攻め落とされるのは物資を抱えてる海上商業組合だからね。補給線を断つのは基本中の基本だって先生が言ってたよ」
霊剣の手入れをしながらミトの質問に答えているのはレイだ、刃こぼれ一つしない大剣をじっくりと観察し、曇りを丁寧に取り除いている。
「そもそも海上商業組合の本拠地ってどこになるの?」
「昔は中央の南にあったって話だけど、帝国との戦争で壊滅させられて今は散り散りだって聞いてるよ。それこそクリスさんなら現拠点の場所を知ってるだろうしそっちに聞いてみた方が早いかもね。教えてくれるかはまた別問題」
「それもそうね、所で……」
本を閉じて棚へと戻し、窓の外へと目を向けた。
「あの馬鹿達何やってるの?」
ミトの視線の先にはアデルとガズルが共に甲板で釣りをしていた。食料は往復分積み込まれていて不自由する事の無いこの船旅において魚を釣ろうとしているアデルとガズルが気になっていた。
「気分転換じゃないかな、何かしてないと落ち着かないんでしょ。ほら、プリムラの件があるから」
「あぁ、なるほどねぇ」
安否確認が取れていないプリムラの事ばかりが二人の頭を過っていた。何かしていないとその事ばかりを考える様になってしまいどうにも落ち着かないでいるアデルとガズル。筋肉トレーニングから読書、船中の探索と出来る事はあらかたし終えて現在は釣りに没頭している。三十分ほどヒットは無い。
「何だかんだ言って心配してるんだよ、好きな人だからって事もあるだろうけど」
「親友同士好きになる相手も同じねぇ、仲良いのねあの二人」
「時々喧嘩もするけど、喧嘩するほど仲が良いって言うじゃない? 昔のコトワザみたいだけど」
「初めて聞いた――ううん、覚えていないだけかもね」
外で釣りをする様子を窓際まで移動して眺めるミトと、変わらず霊剣の整備をしているレイの二人の間にそんな会話が生まれた。徐々に記憶を取り戻しているミトの表情はどこかやるせないようにも見える。
「記憶の方はどう? 何か思い出せた?」
「ちょっとずつ思い出せては来てるんだけど、今一確証を得るような物はまだぼんやりとしてる感じ。何て言えばいいのかな。靄がかかってるというか霧で見通しが悪いと言えばいいのかな。思い出してきたのは相変わらず戦いの事だけで肝心の「私がどこの誰で、何でここに居るのか」はさっぱり。無理に思い出そうとすると頭が割れる程痛くなってまだ無理ね」
「そうかぁ、でも徐々に思い出せて来てるのは良い事だねミト」
「そうかしら? 戦い方だけ思い出せても何にもならないよ」
そう語るミトの横顔はどこか寂しそうに見えていた。肝心の自分が誰なのかが分からず戦い方だけが思い出せる現状に苛立ちにも似た感情が芽生えていた。その苛立ちはミラ、ファリックも同様だった。
何故戦うことが出来るのか、何故自分達に戦闘技術があるのかが一切不明であり困惑する。だが結果としてそれが彼等をこの時代で生き抜く術であると理解している。故に不安が彼ら三人の脳裏を過ぎった。
「気にするなって言うのも無理な話だけどさミト、分からない答えを探すのだけが全てじゃないよ。今君達がこの時代に居るのに何か理由があるとしたら、肝心な所だけぽっかりと空いてる記憶もまた意味があるのかも知れないよ」
「――意外とロマンチストだよねレイって。そうね、もしかしたら意味があるのかも知れないね」
レイの言葉にミトはそっと微笑みながらそう答えた。
各々が抱えた悩み、不安を乗せて海上商業組合の船は一路西大陸へと向かう。
消息が見えないプリムラや先行して西大陸へと渡ったカルナック達と合流すべく彼等は港町「リトル・グリーン」へと向かう。中央大陸で起きた大規模衝突以上の戦いがこの先彼等に待ち受ける事は必至、それ故にレイの表情はどこか硬かった。