「現在西大陸は北東部の産業都市ジグレッド以外はまだ帝国の手が及んでいません。ですが今回投入されている帝国の兵力とフレデリカ・バークの存在がキーになっています。恐らくジグレッドを拠点に西大陸の制圧が行われると思われます。今私達が向かっている場所は海上商業組合の西支部がある港町「リトル・グリーン」になりますが、クレッセントから直中でレールが敷かれていた「カルバリアント」迄は馬で三日程掛かります、皆さんの仲間が逃げるとしたらリトル・グリーンだと思うのですが……」
クリスが西支部より受けた伝報に目線を落としながら説明するが、避難民のリストにプリムラ達の名前が無い事を確認する。
「まだ避難情報は無いんだな?」
「えぇ、残念ながら」
アデルがクリスを睨みつけながらそう吐き捨てた。
西大陸、別名魔大陸と呼ばれ早二千年。
人とは違うエーテル機構を備え、貯蔵量も人とは一線を越える種族であり法術の元となる「魔術」を操る。外見は人と全く変わらない為に一見判断しにくい。しかしエーテル感知ができる法術士であれば人族か魔族かの区別は容易い。
大陸間の技術レベルには約五百年程差があると言われている。高度な技術を持つ魔族達と共に生き抜いてきた人族は互いに技術を提供し合っている。そして完成させたのが例の蒸気機関であった。
水蒸気を動力源に動く機械のソレは法術や魔術にも引けを取らない運動量を作り出すことに成功した。その一つが蒸気機関車である。
「蒸気機関車が発明されて五十年、これに勝る超移動距離貨物は未だ存在しない」
人なら百数人、物量は数トン単位まで乗せる事も可能で持続距離は数百キロと言われている。従来のエーテルを利用した貨物列車は術師が交代しながら十数キロを移動する事が出来るのに対しコレだ。革命であったと言わざる得ない。だが同時に大きな問題も抱えていた。
「蒸気機関車を作るのに必要な鉱石や炉に使われる特殊な金属は中央大陸にしか発見されておらず、量産することが叶わない状況がこの四十年続いていた。それらを解消する方法として海上商業組合との同盟に参加することで問題は解決することが出来た」
コレが十年程前、ごく最近の話である。故に普及に時間が掛かり人でも足りない所に帝国との戦争が勃発してしまった。産業都市ジグレッドが帝国に落ちて以来重機や蒸気機関はすぐさま帝国へと搬送される事になった。これには海上商業組合も黙っては居なかった。
「蒸気機関車を量産させる為に手を組んだ西と海上商業組合は面白くないわね、そして勿論この事態を重く見た東も」
その速報は東大陸にまで流れていた。
海上商業組合と長年同盟関係にあったケルヴィン領主もまたこの事態に憤怒していた。この事件を切っ掛けに西大陸、中央大陸南部の海上商業組合、東大陸のケルヴィン領主の三同盟が結成され帝国に宣戦布告を行った。この世界大戦はまだ始まってそう長くは無いのだ。
「――あれ、でも帝国の圧制は中央大陸以外にも広がっていたんじゃなかったの?」
先程から船室の一角にある本を読んでいたミトが首を傾げる。その声に反応したのがレイだった。
クリスが西支部より受けた伝報に目線を落としながら説明するが、避難民のリストにプリムラ達の名前が無い事を確認する。
「まだ避難情報は無いんだな?」
「えぇ、残念ながら」
アデルがクリスを睨みつけながらそう吐き捨てた。
西大陸、別名魔大陸と呼ばれ早二千年。
人とは違うエーテル機構を備え、貯蔵量も人とは一線を越える種族であり法術の元となる「魔術」を操る。外見は人と全く変わらない為に一見判断しにくい。しかしエーテル感知ができる法術士であれば人族か魔族かの区別は容易い。
大陸間の技術レベルには約五百年程差があると言われている。高度な技術を持つ魔族達と共に生き抜いてきた人族は互いに技術を提供し合っている。そして完成させたのが例の蒸気機関であった。
水蒸気を動力源に動く機械のソレは法術や魔術にも引けを取らない運動量を作り出すことに成功した。その一つが蒸気機関車である。
「蒸気機関車が発明されて五十年、これに勝る超移動距離貨物は未だ存在しない」
人なら百数人、物量は数トン単位まで乗せる事も可能で持続距離は数百キロと言われている。従来のエーテルを利用した貨物列車は術師が交代しながら十数キロを移動する事が出来るのに対しコレだ。革命であったと言わざる得ない。だが同時に大きな問題も抱えていた。
「蒸気機関車を作るのに必要な鉱石や炉に使われる特殊な金属は中央大陸にしか発見されておらず、量産することが叶わない状況がこの四十年続いていた。それらを解消する方法として海上商業組合との同盟に参加することで問題は解決することが出来た」
コレが十年程前、ごく最近の話である。故に普及に時間が掛かり人でも足りない所に帝国との戦争が勃発してしまった。産業都市ジグレッドが帝国に落ちて以来重機や蒸気機関はすぐさま帝国へと搬送される事になった。これには海上商業組合も黙っては居なかった。
「蒸気機関車を量産させる為に手を組んだ西と海上商業組合は面白くないわね、そして勿論この事態を重く見た東も」
その速報は東大陸にまで流れていた。
海上商業組合と長年同盟関係にあったケルヴィン領主もまたこの事態に憤怒していた。この事件を切っ掛けに西大陸、中央大陸南部の海上商業組合、東大陸のケルヴィン領主の三同盟が結成され帝国に宣戦布告を行った。この世界大戦はまだ始まってそう長くは無いのだ。
「――あれ、でも帝国の圧制は中央大陸以外にも広がっていたんじゃなかったの?」
先程から船室の一角にある本を読んでいたミトが首を傾げる。その声に反応したのがレイだった。