ギズーがレイとアデルの首根っこを掴んで立たせる。絶望に支配されたその表情にギズーは二人に向けてシフトパーソルを向ける。

「しっかりしろテメェら!」

 その銃口を空へ向けて引き金を引いた。
 乾いた音が彼等の耳に届くとハッとして二人はギズーを見た。いつもの苛立ちを隠せない表情と共に残念そうに二人を見る顔があった。

「らしくねぇぞ、確かにメリアタウンは墜ちたけどまだ俺らが居るじゃねぇか! それに避難状況もどうなってるか分かってねぇ。運よく生き延びた奴も居るかもしれねぇんだ。まずはその確認と捜索が先だろう馬鹿野郎共」
「ギズー……あ、あぁそうだね。その通りだ」
「お前にそんな事言われるとは思わなかったな」

 今までのギズーならまずこんな事は言わないだろう、だがこの一週間で彼もまた少しばかりの変化を見せ始めていた。
 そう、まだ全面的に敗北したわけじゃ無い。中央大陸での戦闘はメリアタウンの壊滅によって終わったかもしれない。が、まだ彼等が残っている。反帝国を掲げる組織の中で最大勢力且つ、最小の戦闘集団が残っている。

「一先ず生存者の確認をしよう、アデルとガズルは北側。ギズーとミラ、そしてファリックは東側を。ミトは僕と一緒に西側を捜索しよう。何かあったら通信機で連絡して」
「おう、南はどうするんだ?」
「南はとりあえず大丈夫だと思う。あそこは――」

 ギズーに言われレイがそこで言葉に詰まる。
 そう、南側は商業施設となっている。常駐してる者はメリアタウンの住民が半分、残りは商いで立ち寄った人である。多分一番最初に避難できるヵ所である。それは城壁の破壊された具合からうかがえた。

「うん、南部は最後にしよう。何もなくても調査が終わったら中央のアジト――」

 そこでハッとする、そう、自分達のアジトの事を。留守番を頼んでいたプリムラやゼットの事を思い出す。その言葉でアデルとガズルの双方が顔面蒼白になる。

「プリムラっ!」「プリムラ!」

 二人は即座にアジトへと走った。
 その後ろ姿をレイ達は何も言葉を掛ける事が出来ずにいた。そして同時に編成を変える。

「アジトの事はあの二人に任せよう、残ったメンバーで各方面を見て回って欲しい」
「仕方ねぇな、俺は北部行くぜ。おいファリック付いてこい」

 突如指名されたファリックは頷いてギズーの後を追う。

「そしたらミトは西部、ミラは一応南部を調べて。僕は東部を見て回る」
「分かった」「了解」

 ミトとミラの両名が即座に行動を開始する、走り去っていく姿を見てレイはもう一度この情景を見渡した。
 美しい街だった、周囲が城壁に囲まれているとはいえ街並み、街道、そこに住む人々。往来でにぎわった南地区へと続く一本道。それら全てが粉々に破壊されてしまっていた。
 予想だにできなかった。
 
「東部、作戦司令本部がある場所だ……」

 ゆっくりと歩き出したレイの目前に広がるのは瓦礫の山、ひときわ立派に目立っていた作戦司令本部の姿はもちろんなかった。東部といっても中央部から少し離れたところにあった司令本部だが現時点でその面影は見るも無残な状態になっていた。焦げて炭化している元「人」の腕や頭部、あたり一面が異臭で満ちていた。
 この中で生存者を発見するのは困難であるとレイはメリアタウンへと侵入した時点で理解していた。だからこそ絶望したのだ。だが彼等の所為ではない。