遡る事、三日前。

 フレデリカ・バーク率いる帝国軍は要塞都市メリアタウンの目前まで侵攻していた。先行部隊として重装砲兵二百、法術士五百。その火力なるや恐怖の一言だっただろう。
 先陣を切るフレデリカによってあの強固な城壁は一瞬のうちに破壊されてしまった、後続に控える重装砲兵の一団がトリガーを引く。八十八ミリ炸裂徹甲弾はフレデリカが破壊した城壁の内部を徹底的に破壊し始めた。
 メリアタウンは防護陣形を取ろうとしたが時既に遅し。炸裂徹甲弾が城壁を超えて降り注ぐその光景はまさに地獄、鉄の雨は容赦なくメリアタウンを破壊し、破壊し続け、破壊の限りを尽くした。

 思考回路が止まる。
 鉄壁とまで謳われたあの城壁が一瞬で破壊される、それが何より理解できなかった。前衛を守備していた城壁カロット砲部隊も山から突如として現れた帝国兵に気付くも、通信機のボタンを押す事すらかなわず即死していた。同時に法術による通信機器は全てジャミングを受け機能停止、沈黙していた。

「彼等が帰還するまで絶対に落としてはならん!」

 メリアタウン本部統括のレナードが叫ぶ、中央に陣取った司令部から各方面へと次々に指示が飛ぶ中、用意をしていたとはいえ奇襲を受けたメリアタウンのダメージは予想を超えていた。住民街にダメージが無いのがまだ幸いしてるとは言え負傷者の数は勢いを増していく。
 
「レナード司令、医療班が足りません!」
「泣き言いってんじゃねぇ! 何とかして持たせろ! 彼等は必ず帰ってくるっ! それまでここを落としてはならん! 法術士を前線から少人数抜いて後ろに回させろ!」

 唇を噛みしめながら悔しそうにそう言った。
 城壁の上から見下ろした光景はまさに絶望、大量の帝国兵が押し寄せてくるのをはっきりとレナードは目撃した。

「化物共めっ!」

 地獄を作り上げるぞ、まさにその一言で全てが表現できる様だった。
 重装砲兵から放たれる八十八ミリ炸裂徹甲弾の火力もさることながら、その後方で永遠と詠唱を繰り返しては法術を放つ術師達も脅威。そして何より、その彼等の前方でたたずむ白い悪魔が一人。

「アルファセウス最後の一人――最恐(フレデリカ・バーク)っ!」

 白い悪魔、破壊の女神、デストロイヤー、歩く恐怖、稀代の法術使い。曰く最恐、曰くフレデリカ・バーク(ラスト・アルファセウス)
 帝国最後の切り札は、その破壊されて行く街を見て密かに笑っていた。





 レイ達がメリアタウンへ戻ってきたのはそれから三日後の事。
 ガズルの知らせを受けて全速力で山を下り、そして彼等は絶望した。

「何だよ――これ」

 アデルが膝から崩れ落ちた。
 彼等の目に映ったのは、かつて城壁都市と呼ばれたメリアタウンの原型を留めていない廃都市だった。城壁は半分が崩れ落ち、街に至っては大火災が起こったであろう。炭と化したかつて家だった物の残骸が残り、石造りの家は原型を留めておらず。綺麗だった街道は粉々に粉砕していた。

「そんな、たった一週間――一週間の間に」

 受け入れがたい事態に思考が追い付かない。

「メリアタウンが――墜ちた?」

 アデル同様レイもまたその場に崩れた。そう、彼等の敗北だった。
 嫌な予感は確かにあった、だがそれはあくまで最悪の状況を想定した可能性の低い事態。しかし現実に起きたのはその排除しても差し支えない状況だった。

「――おい馬鹿二人とも」