「それにあやかろうとしてるアデルにそんなこと言われたくないね、何なら切ろうか?」
「いや、そのままで良い」

 二人の会話がどこかおかしくてミトが笑った、つられてミトとファリックも笑う。それを見てギズーがムスッとしながら埃だらけの服を見てため息を付く。

「俺は戻ったら絶対に風呂入る、こんな状態いつまでも続けてられるか」
「あら、意外と軟弱なのね?」
「テメェみたいに野生に生きてねぇんだよ」
「失礼ね、私だってお風呂に入りたいわよ」

 ギズーとミトがおちゃらけながらそんな小言を互いに言い合った。それをレイはホッとした様子で見ていた。
 ミト達が彼等の前に現れてから少し経つ、最初こそギズーは銃口を向けたり突如発砲したりと敵視していたが現在では仲間と認識して背中を預ける程の仲にまでなっている。それがレイにはとても嬉しい出来事ではあった。
 彼にとってギズーとは親友であり、友であり、また家族の様な存在でもあった。いや、ギズーだけではない。アデルやガズル、ミト達もまたその一員である。こんな時代だ、家族に飢える子供は少なくない。忘れてはいけない、レイもまだ子供なのだと。

「しっかし道中大した衝突も無くて良かったな」

 レイから発せられる冷気で涼んでいるアデルが空を見上げながらそう言った。

「気持ち悪い位だ、兄貴があそこに居たって事も不思議だが何にもなさすぎる。俺達をメリアタウンへと近づけさせまいとするだろうに道中居たのは一般の帝国兵だけだ、武装もショットパーソルとサーベル程度だったし何か腑に落ちねぇ」

 しかめっ面で冗談を言い合っていたギズーが懐から煙草を取り出して火を付けながらそう言った。

「覚えてるか? あの野郎の言葉」

 一息ついてから煙を吐き出してカルナック家であったことを思い出すギズー、常に引っかかっている事を彼なりの考察して喋りだした。 

「メリアタウンの防御はある種鉄壁に近い、法術使いの数も帝国より多いし城壁の砲台の威力だって向こうからすれば脅威だろう。法術攻めも数で攻めようにも帝国からしたらどちらも不可能に近いんだ。逆を言えば防御に徹底していれば崩されることは無い。だからこそ俺達は安心して剣老院の元へと旅立つことが出来た」

 そう、メリアタウンの防御力は通常の街と比較にならない。まさに要塞都市であり難攻不落と呼ぶに相応しい。仮にレイ達七人が攻め込んだとしてもメリアタウンを落とすのは難しいだろう。それほどの防御力はあるのだ。

「それは僕もずっと気になってたんだ、仮にあの要塞都市が陥落するようなことが有ればこの戦争自体僕達にとって最悪の結果になる。それにプリムラ達もメリアタウンにいるし」
「でもよぉ、アレを落とそうとするならそれこそ「国落とし」に近いだろ? 今の帝国にそんな戦力が――」

 アデルはハッとした、一人だけいる事実だけがぽっかりと穴が開いたように抜けていたのである。決して忘れていたわけではない、最大限警戒していた事は事実であるが出来ればそうありたくないと願っていたのも事実。

「最恐――フレデリカ・バーク」

 レイは頷いた、アルファセウス最後の一角にして旧剣聖であるカルナックをも凌ぐと言われる戦力を持つ「最」の称号を持つ帝国最後の切り札。

「最恐かぁ、対峙したことも無ければどんな力なのかもわからねぇから今一パッとしねぇけどおやっさんより強いって言われる位だからな。それに「最」の称号は伊達じゃねぇ。覚えてるか? エレヴァファル・アグレメントの事」