「メル!」

 レイは突然目を開けた、がばっと勢いよく起きあがった。周りには誰もいない。辺りを見回すと隣のベットにメルが眠っているだけで他には何もなかった。すうすうと寝息を立てて眠るメルが居た。

「――夢?」

 辺りはすっかりと暗くなっている、もう夜なのだろうと言う事が病み上がりのレイでも分かるほど暗かった。外はほんのり明るく雪がその明るさを演じていた。風はなく大きな雪が深々と積もっている。

「そうだ、アデル達はどうしたんだろう。確かメルと一緒に何処かの街に来てそこで倒れたような倒れてないような。そうするとここは何処なんだ?」

 ベットがギシッと音を鳴らした、パジャマ姿のレイは床に足を着いて立ち上がると暗い部屋にライターで明かりを付ける。そこはとても綺麗な部屋で何処かのホテルのようだった。

「僕の荷物がちゃんとある、幻聖石の鞄まであるし――一体誰が」
「ん」

 小さな声が聞こえた、声の主はメルだ。ゆっくりと目を開きそして起きあがる、レイはライターをメルが居る方に向けて

「大丈夫、メル?」

 と言った、メルはまだ寝ぼけている様子で事を全く把握出来ない状態だ。

「レイ君?」
「そうだよ、僕だよ」

 レイはゆっくりとメルの方へと足を運んだ、うっすらとだがレイの目が慣れてメルの身体が見え始めた頃レイは突然顔を赤くして後ろを向いた。

「レイ君? どうしたの」
「メメメメ……メル、その」

 レイは顔を赤くしたままメルの方を向かなかった、不思議に思ったメルは自分の身体を見る、そして大きな声で叫んだ。

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!」

 その声は建物全体に響き渡るような声だ、勿論隣の部屋にいたアデル達にもハッキリと聞こえるぐらいの声でもある。

「ち、ちょっと……そんな大きな声だしたら」

 レイがメルの方を振り返って慌てながらそう言った、メルは布団で自分の身体を隠しながらレイの顔を見る。

「嫌、レイ君こっち見ないで!」
「あわわわ、ゴメン!」

 恥ずかしそうにメルがレイの顔を見ながら叫んだ、叫びと同時に突然扉が開いた。

「テメェら起きて早々何騒いで」

 アデルが飛び込んできた、そして明かりを付けて言葉を失った。アデルの目の前にはパジャマ姿のレイと素っ裸のメルが布団で自分の身体を隠しながら恥ずかしそうにアデルの方を見ている。

「レイ、テメェ人を心配させておいて……起きたと思ったらいきなり夜這いとはいい度胸じゃねぇか?」
「アアアア、アデル! 落ち着いて聞いてくれ、僕は別に何もしてないし起きたらメルがその、裸になってただけであって、僕は何もしてないし何も見てない!」

 レイが慌てながらアデルに弁解をしている最中にメルが大声で。

「なんでもいいから二人とも出てって!」

 メルは近くにあった花瓶をレイの方に投げつけた、辛うじて避ける事に成功したレイだったが次が来たら避けられそうにない事を察知し急いでアデルの腕を引いてその部屋を出た。

「……何がどうなってるんだ」
「メルの事は知らん、お前達がこの街の入り口で倒れていた所を俺達がこのホテルに連れ込んだんだよ。それから一週間眠り続けた後メルと美味しい事やってるなんてふざけんじゃねぇよ」
「だから、僕が起きたらメルが裸だったんだ」

 アデルとレイが廊下で言い争いをしている所、何事かと騒ぎに駆けつけたガズルが隣の部屋から飛んできた。

「何騒いでんだよ、アデル。レイは病み上がりなんだから無理させんじゃねぇよ」
「だって此奴が」

 そこまでアデルが言うと突然後ろから何かで頭をどつかれた、スパーンと弾むような音が鳴り響く。アデルが蹲る中誰がアデルにこんな事をしたのかとレイは殴った張本人を見る。そこには見た事のない女性の姿があった。

「初めましてレイ君、これから一緒のパーティーになるアリスよ。宜しくね」
「アリス、お前いきなり叩く事はないだろ」

 アデルが起きあがりアリスの胸ぐらを掴んで怒鳴った瞬間ガズルの後ろから突然銃弾が飛んできた、アデルは顔面蒼白になり顔のギリギリ横をかすめた弾丸の音を聞いた。アリスは平然と立っている。

「うるせぇ、目が覚めちまったじゃねぇか」
「ギズー、テメェ!」

 アデルが後ろを振り向こうとしたときアリスがアデルを何処かへと連れて行ってしまった、暗い廊下に連れ込まれて何発かはりせんで叩かれる音が聞こえた。

「あん、起きたのかレイ?」
「ギズー?」
「そうだ、寝ぼけて俺の顔まで分からなく――」

 レイはその場から跳躍してギズーの方へと猛突進した、そしてギズーの顔に一発拳を入れた。殴られたギズーは五メートルも後ろの方に吹き飛ばされて倒れた、ギリギリと歯ぎしりを立てながらレイはギズーの方に近づいていく。

「痛てぇ、何しやがる!」

 ギズーは起きあがり拳銃を取り出す、そして引き金を引いた。だがリヴォルバータイプの拳銃であったため撃鉄の部分にレイが指を入れて弾丸を発射させなくした。

「ギズー、あれ程言ったよね! そんな物人に向けて発砲するもんじゃないって何回言えば気が済むんだ! それに、指名手配になるほど人を殺して!」

 レイがもう一発拳を入れる為大きく振りかぶった、だが振り下ろそうとした瞬間ガズルがその腕を止めた。

「放してガズル!」
「止めろ、レイ! 此奴の話も聞いてやれ。積もる話もあるだろうしな、それにいきなり人を殴るお前もお前だ。少しは落ち着け」

 ガズルの顔は余裕だった、だが内心はもの凄く怯えていた。今までに見た事のないレイのその行動と表情。そしてさっきから来る恐怖心がガズルを怯えさせていた。


 こうしてレイとメルは目覚めた、だがレイは探していた親友との再会を最低のカタチで迎えてしまった。喧嘩という名の暴力だ。
 だがギズーは知っていた、何故レイが自分の事を殴ったのか、その本当の理由と意味を出有る前から知っていた。そしてレイも何故自分がギズーを殴ったのかを知っている。それは意味のない暴力ではない事をここに証明する。
 だが、レイはギズーとの再会とは別に一つ悩んでいる事があった。それは自分が見た夢のこと。
 何故自分の夢の中にメルが出てきたのか、あの少女は誰なのか、あの少年達と幻魔と呼ばれた生き物の正体は何なのか。今はまだ何も分からない。あの少女が言った事が正しければ今はまだ何も分からなくても良いのかも知れない。
 だがそのことだけが今のレイの頭の中にはあった。
 そしてもう一人、ここにも有る事で悩んでいる少年が居た。アデルは以前から気になっていたインストールについて興味を持ち始めている。帝国特殊任務部隊中隊長レイヴン・イフリート、東大陸を統治しているケルビン領主フィリップ、そしてあらたにFOS軍の一員となった元ケルヴィン領主軍第三番隊団長シトラ・マイエンタ。彼女らはカルナックの事を知っているようだ。そしてシトラの発した言葉の意味とはいったい何なのか。
 彼等はまだ何も知らない。


 第一章 少年達の冒険編 END