「一応万に一つエーテル食われるようなそぶりを見せたら即座に絶対零度(アブソリュート・ゼロ)でアデルを凍らせて炎帝とのつながりを切ろうと思っただけだよ。でも成功する確立は九割だと思って居たから本当に万に一つって感じだね。でもアデルが怒るのは僕じゃ無くて後ろの面々にじゃない?」
「後ろ?」

 氷結剣聖結界(ヴォーパル・インストール)を解除したレイの後ろをアデルが覗き込むとミラを盾に全員が隠れていた。ギズーはウィンチェスターライフルを取り出し、ガズルは両手に重力球を作り出し、ファリックは二丁のパイソンをアデルに向け、ミトは杖を握りしめていた。

「お前ら……」

 アデルの声にハッと我に返った彼等は各々獲物をしまう。ギズーだけは舌打ちをして渋々幻聖石に戻してポケットへとしまう。

「ギズーテメェ今舌打ちしやがったな!」
「うるせぇ死ねボケ、成功したから良い物を周りに煽られただけで博打するんじゃねぇクソッタレ!」
「な――おまえそれは言い過ぎだろう!」
「だからうるせぇって言ってんだよ、お前もお前だレイ。こんなクソ野郎煽って楽しむんじゃねぇ」

 苦笑いしながらレイは右手で頭を掻き始めた、その隣で今一納得しないアデルが夕陽を背に静かに怒りをあらわにしている。だが内心ほっとしているのは確かだ。デバイス無しでも発動に成功したのは彼にとって大きな一歩であり、確かな戦力アップと言っても過言じゃない。

「さて、それじゃぁ僕なりに考えた対策を今のうちに話しておこうと思う。その話が終わったら移動を再開しよう、出来る限り早く戻ろう」




 彼等が再び移動を再開したのは陽が沈んでから二時間程後の事だった。これには理由が幾つかある。
 まず一つ、暗闇に紛れて帝国兵との接触をなるべく避ける目的がある。次に現状彼等がどこに居るのかを帝国の目から隠れる必要があった為だ。
 既に情報戦で彼等にとっては不利な現状、出来る限り位置を把握されたくないとガズルが提案した事。居場所が分かっていれば奇襲を受けるリスクが上がり何か策を講じようにも後手に回ってしまう為だ。同時に帝国兵と出くわさないようにするのも時間をロスしない為、いくら彼等にとって気に留める事の無い戦力だとしても逐一戦っていてはその分時間をロスしてしまう。それを避けるには見つからないように闇夜に紛れて移動するのが一番の得策だった。
 先頭にギズーを配置し、次にアデルを置く。最後尾はレイ。その間は特にバラバラでも構わない。ギズーを先頭に配置したのには理由があり、帝国兵を察知した際素早く仕留める事が出来るのが彼であるからだ。シフトパーソルの先端に消音機を取り付けて静かに、闇夜に紛れて一発一発正確に帝国兵の頭を撃ち抜く。気が付いた時には既に遅し、仮に撃ち漏らしたらアデルが即座にツインシグナルで心臓を刺突するかグルブエレスで首を跳ねる。

 夜通し移動した結果、陽が昇るころには見慣れた丘へと到着していた。

「ここまでくれば後は目と鼻の先だ、少し休憩入れようぜ。流石に突かれたわ」

 アデルがその場に腰を落とすと次々に座り始めた。

「俺は周囲の状況を確認してくるわ、何かあったら呼びに来る」

 そう言うとガズルは双眼鏡を手にいつも見張りをする木を目指し歩き始めた、気温が徐々に上がり始めるのを感じ取ったレイはゆっくりとエーテルを練り始めた。ほんの少しだけ氷結剣聖結界(ヴォーパル・インストール)を発動させると彼の周囲から冷気が放出し始める。

「お前は良いよな、こんな暑さでも眉一つ動かさないんだからな」