淡々と語るレイもまた悲壮感を感じていた。
 剣聖結界(インストール)使いに剣聖結界(インストール)を使わずにどうやって戦えばいいのだろうかとそればかりを考えている。先の戦いでは互いに剣聖結界(インストール)を使い精神寒波を緩和しながらの死闘だった。それも二対四。実力差もあったがそれでもギリギリの勝負だった。
 今回は違う、こちらの技や術を盗まれてしまう可能性がある以上下手に戦うことが出来ない。もしも、万が一彼等の術と技が盗まれたら実力差も垣間見て確実に負けるだろう。そして何より問題なのが一つ。

「アデル、間違っても兄貴と対峙した時は絶対に刀は使うな」
「なんでだ?」
炎帝剣聖結界(ヴォルカニック・インストール)限定の六幻は使えないだろうが、それまでの連続抜刀は脅威だ。確実にコピーしてくるぞ、それに兄貴が剣老院の技をコピーしたらそれこそ手に負えなくなる」
「――それもそうだな、グルブエレスとツインシグナルを使うのも何か久しぶりな気がするな」

 常に腰に吊るしている二本を取り出して刃を改める。常に整備していたおかげでいつでも使える状態にはなっている曲刀と直剣に目を凝らすアデル、それを隣で見たミラが口を開いた。

「何で普段からそれ使わないの?」
「元々こっちが本命だったんだが剣聖結界(インストール)はインストーラーデバイスじゃ無いと俺はまだ使えないんだ。だからこっちで戦う事は少なくなってただけで技の種類や戦い方はこっちの方が俺には向いてるんだよ」

 レイを含めて全員が久しく見ていなかった二刀流のアデルが見れると思うと少し活気が沸く。ヤミガラスを使うアデルはどちらかと言うと慎重に相手の動きを分析し一撃必殺を決めるカルナック流抜刀術使いの奥義伝承者だが、元を正せば荒れ狂う二刀流の法術剣士だ。派手好きな彼からすればこちらの方が性に合っている。
 しかし欠点も勿論ある。
 アデルの精神力ではインストーラーデバイス抜きで剣聖結界(インストール)は使えない。それでも並の法術使いと比べれば卓越したエーテル操作を可能とするが、まだ力の加減が出来ずにいる。
 例えるのなら術師が使う初歩的な術、同じ術をアデルが使うと五倍にも十倍にもエーテルを消費してしまう。そして消費したエーテルの回復力は人並みであるからこそインストーラーデバイスでその力加減を調整しなくてはいけない。だが。

「でもよ、お前も炎帝剣聖結界(ヴォルカニック・インストール)をそれなりに使えるようになってんだ。デバイス抜きでもある程度は使えるんじゃないのか?」
「無茶言うな、剣聖結界(インストール)時の消費エーテルは尋常じゃねぇんだぞ。いくら俺のエーテル貯蓄量が人のソレを外れてると言ってもとんでもねぇ量消費するんだ。デバイス抜きでやったら一瞬でタンクが空になっちまうよ。そうなったら最後だ、エーテルに食われて化け物になっても良いのか?」

 ガズルが笑いながらデバイス抜きでの剣聖結界(インストール)を提案するが、それを普段見せる事の無い真顔でアデルは返答した。確かに一歩間違えれば死に至る術であるが現状のアデルであればある程度は何とかなるのではないかとガズルは思って居た。それはレイも同じだった。

「いや、ガズルの言う通りだよアデル。現状であればデバイス抜きでも使えるかもしれないよ?」
「お前まで何言ってんだよ全く、そこまで言うなら試してやろうか? どうなっても知らねぇぞ」