そこでアデルは気付いた、この笑みの理由がなんであるか。するとガズルはアデルの胸倉をつかむと体を捻って反動をつけた。胸倉をつかまれたアデルの体はグッと引っ張られ宙に浮く。そのままガズルの周りを一回転して空へと投げ飛ばされた。上空五十メートル程飛ばされたアデルはジタバタと手足を動かしてバランスを取ろうとした。

「てめぇガズル!」
「良いから周囲を見ろボケナス!」

 理不尽だ、そう上空で一言つぶやいて左手で飛ばされそうになる帽子を押さえた。
 落下する直前でようやく体のバランスが取れ周囲一面を見渡した、見えるのは砂、砂、砂。まだまだ長い砂漠のはるか外に荒野が見えた。

「あそこまで後何キロ有るんだチッキショウ――ん?」

 遠くに見えてる荒野を凝視していたアデルには一瞬だけ砂が舞い上がるのが見えた。
 何もないはずの砂漠に砂煙が上がるはずもなく、そこに何かがいる(・・・・・)とアデルでも分かる。それが一体何かが分からない。砂煙が上がった場所を直視しながらまっすぐ足から落下していく。

「なぁ、あそこに砂煙が上がっ――」

 落下速度が徐々に加速し砂に首まで埋まる形で着地した。思わず口が止まって発せられていた言葉に詰まる。それが他の六人にはとても面白く見え一同は大笑いする。

「なぁ、それ冗談でやってるのか?」
「馬鹿言うな! そんなことより伝えたいことが有るんだがひとまず引き上げてくれ。身動きがとれねぇよ」

 笑いすぎて涙目になったガズルとレイの両名は砂に埋まっているアデルの両脇を抱えて力任せに引っこ抜いた。エルメアに入り込んだ砂が一気に下へと流れ出していく、それがまたレイとガズルの眼下に映って笑いがこみあげてくる。アデル本人は至って真面目な顔をしているから尚可笑しかった。

「やめてよ、只でさえ砂漠で体力消耗するのに笑わせないでくれアデル」