ここ、中央大陸中央部より北東に進んだ所にある小さな一軒家。そこに壮年と女性が住んでいた。
 家の事は全てこの女性“アリス・コンチェルト”が行っていた。
 壮年は毎日森の中を散策してみたり、自分の部屋で何か物書きをしているのが日課である。アリスには内緒で風呂の覗きも趣味としている。
 この壮年の名前は“カルナック・コンチェルト”と言う、三大大陸を又にかけ凶暴な怪物(モンスター)を退治した三英雄の一人。
 通称剣聖、その他にも幾多の名声を欲しいままにしてきた彼ではあるが金はない。基本は俗世から離れたこの地で暮らしている。山の中腹にあるこの家を構えてから幾年、弟子の志願者が後を絶たないがこれまで育てた弟子は全部で五人。そのすべてが一騎当千の力を保有している。

「おや?」

 書物を読んでいたカルナックがふと、窓の外に訪問者を見つける。窓を開けて外の様子を見ると一羽の鳥がその場で滞空していた。

「おやおや、何か変わった事があったのですね?」

 手をさしのべて鳥を指の上にのせる、そして羽ばたくのを止めた鳥を自分の部屋に招き入れて何かの法術を施す。

「どうしました?」

 詠唱を止めて鳥を机の上にのせた。

「ふぅ、大変な事になったぜカルナックよ」

 鳥が喋った、普通の人間ではとても不思議な出来事に思えるがこのおやじ……カルナックには容易い事である。法術により鳥が人間の言葉を喋るようにさせたのだ。

「そのようですね。さて、何があったのか聞かせて頂きましょうか?」
「おう、実は……」

 鳥は今まで見てきた出来事をすらすらと喋り出した、その言葉の一言一言をよく理解し解釈する。そして全ての話が終えた後カルナックが一つため息をついた。

「なるほど、それは一大事ですね。まさかこんなにも早くレイヴンと遭遇するとは、アデル君も相当の苦戦を強いられた事でしょうね」
「そのようだ、レイヴンはインストールを使いアデルとその仲間を赤子のように相手していたぞ。運良く逃げたのは奇跡に近いぐらいだ」
「そうですか、そうなるとその内ここへ戻ってくるかも知れませんね」
「可能性はあるな、でもよカルナック……まさかとは思うがインストールをあの小僧共に教えるつもりなのか? お前も知ってる通りインストールは強靱的な精神力とエーテルを持ち合わせていないと死を招く諸刃の刃だ。それをまだ年端も行かない小僧共に教えるなんて無謀も良い所だ」

 鳥はカルナックを睨みながらそう喋る、確かにそうではあった。それをまだ成熟しきっていない人間に対して教え込むのは到底無謀だと言えよう。

「確かに、まだまだ時期は早すぎると思いますが。それも時間の問題です、あのレイヴンが動いたという事は、既にケルヴィン君とも接触している可能性もあります。ただ……これは悪まで私の憶測でしか有りませんがね。しかし……」
「しかし?」
「出来れば、三人目にはあって欲しくはありませんね。あの人だけには……」