眠たい目をこすって岩場の上を見上げると煙草を咥えながらただ一点を見つめてるギズーの姿がそこにはあった。左手にはシフトパーソルを握りしめ胡坐をかいていた。しかし何時でもシフトパーソルを打てるようにトリガーに指を伸ばし、撃鉄は起こされていた。

「なんだレイ、まだ寝てろよ」
「そうなんだけど、目が覚めちゃって」
「知らねぇぞ? 明日もお前の法術が鍵になるんだ。体は休めるときに休ませるのもお前の仕事だ」

 ゆっくりと岩場を上ってくるレイに気付いたギズーが一瞬だけ振り向いて視線を落とした。ギズーの隣にやってくるとレイもその場に座って同様に遠くを見つめ始めた。

「変わったよね」
「あ?」

 突然のセリフにギズーが何事かとレイを見た。

「ギズーのことさ、先生の所に来た時はあんなにトゲトゲしてたのに今じゃだいぶ丸くなったって話だよ」
「お前までそんなこと言うのか? 俺は何も変わっちゃいねぇんだよ――ただな」

 一度煙草を手に取ると深く吸い込んでいた煙を二酸化炭素と共に口から吐き出す。そのまま両手を後ろに回して寄りかかるように上体をそらした。

「少しだけ荷が下りたっていうかよ、あんまり深く考えないことにしてんだ」
「何を?」
「兄貴の事」

 ギズーの兄、帝国含め全大陸で指名手配されている凶悪人として有名な彼――いや、正確にはギズー以外のガンガゾン一族と言うべきだろうか。
 彼ら一族はこの数十年表舞台ではなく裏の社会、つまり暗殺や殺しを主体とした殺し屋である。ギズーにももちろんその素質はある。並みの戦闘能力ではないのはそのおかげだ。
 だが、ギズーはそんな一族の中でも落ちこぼれの烙印を押されている。理由としてはその弱さだ。確かにギズーは同年代の少年に比べれば圧倒的な力を持つがそれは一族の中では下の下。故に力を求めてカルナックの門を叩いた。