「僕の故郷『ケルミナ』に帝国が進出してきた時さ、父さんの最後の言葉が「お前は私たちの子供じゃない」って告げられてね。んでメルの最後との言葉というか手紙というか――まぁ何にせよ僕とアデルは孤児なのさ」
「ごめんなさい、私――」

 レイはきっと何の気なしに身の上話をしたのだろう、ミトが申し訳なさそうな顔をしてるのを見てそこでようやく場の空気に気づいた。慌てて話題を変えようとしたが思い浮かぶ話もなくワタワタと手を振って、深いため息をついた。

「まぁお前ら二人の身の上話聞いたところで今後の役に立つ話でもねぇがな、それより見てくれ」

 目線を再び地図に落としたガズルが指を指しながら続きを話す。

「現在地はここ、以降東と南は砂漠で西は荒野、北には二千年前にできた巨大な亀裂。目的地であるカルナック家はこの亀裂の先だ、だがどうやってもこの亀裂を渡るなんてことはできん。何年か前までは先人達がかけた巨大な橋があったそうだけど今じゃ落ちてる。って事は砂漠を超えて亀裂の端から迂回するか、戻って帝国の詰め所があるもう一つの橋を渡るしかねぇ」
「砂漠越えかぁ、嫌な思い出しかないなぁ」

 もう一度ため息をつくとカウンターから笑い声が聞こえてきた。

「はっはっは。坊主、また行き倒れるか?」
「やめてくださいおやじさん、縁起でもない」

 店主のガトーだ、一年前に砂漠越えを果たしたレイがこの町で行き倒れにも等しい到着の仕方をしたのを覚えている。それを思い出して笑っていた。

「んでだ、砂漠を超えるとなると結構な距離を歩くことになるんだがどうする?」
「それはもう仕方ないじゃないかな、直線距離なら近いんだけど僕もこの亀裂だけはどうにもできなかったし、その結果砂漠越えを強行して半場行き倒れ。方向音痴だったっていうのもあるんだけどね」