「……」
ケルヴィン領主は頭を抱えていた、目の前にいるシトラの申し出とギズーの事で深く考え込んでいた。
「以上です、私は今日にてケルヴィン領主様の部隊を下ろさせて頂きます」
「ならん、貴様以外に誰が三番隊を指揮するというのだね」
「そのことでしたら、既に『ケルティット』に任せております、彼女でしたら十分役目を果たすでしょう」
だが領主は首を振って、頭を抱えて暫く俯いていた。数分の時間が流れた後領主は突然頭を持ち上げて何かを決意した。
「宜しい、ただし条件がある。シトラにはギズーの監視役をしてもらう、それが条件だ」
「監視役ですか?」
「そうだ、何とか軍とやらにギズーを易々と渡してたまるモノか。用件がすめばすぐに引き戻せるように準備をしつつ警戒をするように」
「あの……」
「何だ?」
困った様子で領主の顔を見る、だが領主はキョトンとした様子でシトラの顔を見た。
「私はもう領主様の元で働くのは止めると言っているのですが」
「何だと?」
領主はやっと事を把握した、シトラは完全に自分の元で働くのをいやがっている事に気付く。だが領主は何度言っても聞かないシトラに苛立ちを始めていた。
「何度も言いますが領主様は他人を軽蔑しすぎています、部下が領主様にどういった感情を抱いているかお解りでしょうか? 何度も三番隊の部下達から相談を受けました、ですが私からは何も言えませんでした。一番隊と二番隊が解散になった理由はそこにあります。一度お考え下さい、その答えが出たとき……私は三番隊ではなく、一番隊の隊長として戻ってくる事をここに約束します」
領主は何も言えずにただ一礼してその場から去っていくシトラの後ろ姿だけを虚しく見ていた。
「領主様」
側近の一人が見た事のない領主の姿に声をかけた、領主は何も反応せずもせずにただただ椅子に座っていた。
だが突然人が切り替わったように立ち上がり剣を手に取り急いでその場から去った。
「……はぁ」
アデルはギズーを連れて外に出ようとした所でシトラと名乗る女性に呼び止められた、アデルの後ろではガズルが震えて縮こまっていた。
「だから、そう言う話だから私も付いていくわ。何か問題でもある?」
「いえ、俺は別に無いんだけど……」
アデルは後ろを振り返り怯えているガズルを見た、ガズルは本当に涙目になっておりアデルのエルメアを掴んだままただ震えていた。
「ガズルがこんな調子なんでね、ちょっと事情を聞きたいんだけど」
「あら、ガズルって名前なんだ。ちょっと可愛がっただけだよ? ね、ガズル君?」
「ひぃ!」
にっこりと笑顔を見せるとガズルは数メートル後ろの方に下がった、そして戦闘態勢に入る。
「まぁ、あいつに危害を加えないのであれば俺達は別に構わないが」
「うむ、確かにシトラの力は絶大だ。アデル、後で注意事項を言っておくからそのことだけには触れないでくれ。死にたくなければだが」
アデルは再度ガズルの方を見る、そしてギズーが言っている注意事項がどれだけ恐ろしいのかを理解してパーティーにシトラを入れた。
ガズルはシトラと大分距離を置いてびくびくしながら門を出ようとした。
「待ちたまえ!」
と、突如後ろから大きな声が聞こえた。ギズーはやれやれと首を振った、アデルとガズルは何事かと後ろを振り向く。シトラは振り向かなかった。
「君達か、我が城に侵入しギズーをさらって行くという何とか軍というモノは」
「それが何か?」
アデルは眉一つ動かさずにケルヴィン領主が手に持っている剣を見る、そして自分の剣を何時でも引き抜けるように腰へと手を回す。
「受け取りたまえ」
そう言うと刀を一つアデルの方へと放り投げた。
「これは?」
「貴様達が戦ったのはレイヴンと聞いている、レイヴンと同等に戦うのならばその剣が必要になるだろう」
アデルは驚いて目を丸くする、なぜ自分たちがあのレイヴンと戦った事を知っているのだろうと疑問を抱いた。だがそれはすぐに理解出来た。
なぜなら彼はこの大陸を納めている王であり、この大陸で起きた事はほぼ全て理解していて当然の事だろうと考えたからである。
「何故、俺にこの剣を?」
「貴様が着ている服はカルナックのお下がりではないのか?」
その言葉にまた驚く、今度は理解出来なかった。
「どうしてそのことを」
「カルナックに合えば分かる事だ、それに……まだ完全にインストールをマスターしていないと見受けられる。貴様が炎帝をインストール出来るとは思えんが持っていて損はない。持っていきたまえ」
「レイヴンも言っていた、そのインストールってのは何だ?」
「それは私の口から言う事ではない、師であるカルナックにでも聞くと良い」
そう言い残して領主はまた自分の城へと戻っていった、問題が山住になったアデルはレイの事を忘れて暫くそのことで考え込んだ、何故カルナックの事を知っているのか。インストールとは何の事なのか。そしてこの剣はいったい何なのか。
今は何も分からない事だらけではあるがそれは全て師であるカルナックに聞けば分かる事だという事は頭の中にはあった。カルナックの家にはもう何年も帰っては居ない、しかし……あそこが自分の家である事には違いない。
「帰ってみるか、あそこに」
振り向き様にそう言って彼等はリーダーの元へと急いだ。