一番先に投げ飛ばしたアデルがガズルの右足をつかんでいた。
 滑っている途中で目を覚ました彼は現状を把握するためにつるつると滑る氷の上で何とか立ち上がり、周囲を見渡している最中。ミラとファリックが乗った丸太に轢かれる。
 ふわりと宙に弾き飛ばされたアデルはもう一度氷に真っ逆さまに落ちる。ふらつきながらも頭を右手で抑えて立ち上がるが、レイとギズーが乗った丸太に再び轢かれる。

 三度宙に浮き、顔から落ちた。そして最後の二人が乗った丸太が近づいてくるのが見えると今度は――三度轢かれる。だが今度は丸太が激突する衝撃に耐えて見せた。先頭にしがみつくが二度轢かれたダメージが思いのほか大きく直ぐに力尽きる。徐々に丸太の重心からズレ始めるとついに投げ出される。
 彼はこの時こう思った。「俺が一体何をしたんだ」と。一度走馬燈が彼の脳裏をよぎり目に映る全てのものがスローモーションで流れるのを彼は感じた。同時に目の前でガズルが泣きそうな顔をしてロープにしがみ付いてるのが見えた。
 意識が朦朧とし始める中、ガズルの姿をとらえたアデルは最後の力を振り絞って手を伸ばす。そして奇跡的にもガズルの右足を掴むことに成功した。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁ! 出たぁぁぁぁぁ!」

 ガズルは見た、真っ黒で顔中血だらけのお化けを。それが自身の親友であり、これまで幾多の山場を共に乗り越えてきた仲間だと気づいたのは、対岸に到着した時だった。